Feb 01, 2022 column

第4回:ハリウッド黄金期からの飛躍 アカデミー映画博物館

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間違いだらけだったハリウッド

アカデミー映画博物館では負の歴史をもつハリウッドを改める展示も多く、『市民ケーン』のオーソン・ウェルズパネルの横にブルース・リー、そしてラテン系アメリカ人女性監督パトリシア・カルドーゾの作品が並ぶなど、多少、無理があるのではと思わせるほど#MeToo、#BlackLivesMatterを意識している。しかし、それぞれの内容は丁寧にリサーチされていて、いかに西部劇がアメリカ先住民の悪いイメージを植え付けたかを、1939年の『駅馬車』のジョン・ウェイン対先住民で説明。現在のアメリカ先住民の生活を描く映画製作者にも焦点が当てられるなど、時間をかけて閲覧する価値がある。今年はじめに亡くなったシドニー・ポワチエも、黒人俳優の先駆者的存在で、黒人ではじめて主演男優賞を受賞した俳優だった。日系人では早川雪洲にはじまり、アジア系俳優ではじめてアカデミー賞助演女優賞を受賞したミヨシ梅木、そして助演男優賞にノミネートされたマコ岩松と、彼らの経験したハリウッドは想像を絶するほど差別と偏見に満ちていたことが分かる。

しかし、ハリウッドの栄光は黄金期を描かずには語れない。オズの魔法使いのルビーのように輝くドロシーの靴など、小道具の展示が並ぶ2階レベルは貴重な展示物で溢れている。試写室では映画のテクニカルな部分に言及した特別映像が流れ、撮影や音響がどのような過程で撮影されるのかを詳しく説明。例えば『インディ・ジョーンズ』の有名なアクションシーンを例にし、ADR、フォーリー、作曲された音楽などを合わせて何層にも分割しておこなわれる作業を一つ一つ解説。最後に全てを合わせて完成映像が披露され、その場に居合わせた10代の女の子が母親の横で真剣に見ている様子が印象的だった。

そして、3階はSFやファンタジーの映画製作を導いたテクノロジーを説明するパネルと、E.Tやエイリアンなど、80年代の懐かしいキャラクターのフィギュアに出会える。 4階、5階は特別展示場。4階は現在、新作『パラレル・マザーズ』で評判のペドロ・アルモドバル特集、5階は宮崎駿のジブリ作品が展示されている。トトロの森に入ったような優しい緑のアーチで始まり、ジブリ作品のイラストがフロア一体にひしめかれ、『アルプスの少女ハイジ』などの宮崎駿初期作品のイラストや映像も見ることができる。小さい頃にカルピス子ども名作劇場を見て育った私にとっては懐かしい空間。作品が生まれたデスクや道具まで展示され、宮崎アニメファンの心をそそることは間違いない。観光が重要な資源であるロサンゼルスで、新観光名所となりつつあるアカデミー映画博物館。日本の映画ファンの来館を待ち望んでいる。

文・写真 / 宮国訪香子
※写真はクレジットなしのもののみ

作品情報
映画『ベルファスト』

ベルファストで生まれ育ったバディは家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。笑顔にあふれ、たくさんの愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの武装集団が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。

製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー

出演:カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル

配給:パルコ、ユニバーサル映画

© 2021 Focus Features, LLC.

2022年3月 TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国公開

公式サイト belfast-movie.com

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』

ニューヨークのウエスト・サイドには、夢や自由を求めて世界中から多くの人々が集まっていた。しかし、差別や偏見による社会への不満を抱えた若者たちは、やがて仲間と集団を作り激しく敵対し合っていく。ある日、“ジェッツ”と呼ばれるチームの元リーダーのトニーは、対立する“シャークス”のリーダーの妹マリアと出会い、瞬く間に恋に落ちる。この禁断の愛は、多くの人々の運命を変える悲劇の始まりだった‥‥。

製作・監督:スティーブン・スピルバーグ

出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デ・ボーズ、マイク・フェイスト、デビット・アルバレズ、リタ・モレノ

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

2022年2月11日(金・祝) 全国公開

公式サイト 20thcenturystudios.jp/movie/westsidestory.html

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。