Oct 19, 2023 column

第38回:POPE of TRASH ジョン・ウォーターズ監督の偉大なる功績

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ドラァグ・クィーンのパイオニア、Divine / ディヴァイン

ディズニーアニメ『リトル・マーメイド』(1989) の人気悪役アースラの初期デッサンでインスピレーションを与えたというドラァグ・クィーン、ディヴァイン。今ではボルティモアの彼女のお墓に多くのファンが訪れるほど、往年の彼女を崇拝するカルト的人気がある。ディヴァインのポスターや写真を見た人は大勢いると思うが、ジョン・ウォーターズ作品『フィメール・トラブル』(1974) では、女子高校生の役から、ティーンの母、ファッションアイコンから死刑囚と、奇想天外な女性のトラブルを演じている。『ヘアスプレー』だけでは、ディヴァインがなぜ、ジョン・ウォーターズのミューズだったのかピンとこないかもしれない。

映画紙に残る奇作である『フィメール・トラブル』はディヴァインの代表作『ピンク・フラミンゴ』よりも、えげつないシーンが緩和されていて、多少見やすく、ファンの中ではトップ作品にのぼる伝説の映画である。独特のメークや、リズミカルなダンスで巨体を揺らすディヴァインは、当時のアート界でも有名だったらしく、アンディ・ウォーホルまで、彼女の写真を撮影している。

ジョン・ウォーターズ監督が運命的にディヴァインと出会ったのは、ディヴァイン主宰のホームパーティ。小さい頃から太っていることでいじめられっ子だったディヴァインこと、ハリス・グレン・ミルステッドは、ゲイやトランスに当てはまらない、女装を楽しむパフォーマーで、日常生活では男で、グレンという呼び名で親しまれていたという。監督がディヴァインに出会ったときの衝撃は、「歩いている人が彼女に見惚れて、交通事故まで起こしたんだよ」と思い返すほど。最初の短編映画『Hug in a Black Leather Jacket』(1964) から始まった2人の狂宴。物語は主人公の黒人男性がクー・クラックス・クランという当時の白人至上主義の秘密結社に白人花嫁との結婚式を準備してもらうという、政治的で挑発的な短編。以降、ほとんどのジョン・ウォーターズ長編作品に出演していてディヴァインの存在感は欠かせない。

デイビッド・レターマンのトークショーに招かれていたときの貴重な映像では、当時、レターマンでさえ、2人のことをどう扱っていいのかと質問選びに困っている様子が見受けられる。永遠のミューズだったディヴァインは43歳のとき、寝ている間に心臓発作で亡くなったそうだ。アカデミー博物館で売られている本の中で、「彼(ディヴァイン)ほど尖ったドラァグ・クィーンはいなかったよ。彼は女性になりたかったのではなく、エリザベス・テーラーのような華のあるゴジラになりたかったのだ」と、監督ならではの表現で、ディヴァインの魅力を表現。ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームの式典でも、「生きていられるだけでも感謝しないと」と大勢の記者の前で挨拶しながら、「ディヴァインの星プレートがいつかハリウッド大通りに現れたらすごいことだよね』と永遠のミューズである故人を忍んでいた。

文・撮影 / 宮国訪香子

作品情報
Exhibition [ John Waters: Pope of Trash ]

Anointed the “Pope of Trash” by William S. Burroughs in 1986, DIY filmmaker, author, contemporary art collector, fashion icon, and self-proclaimed “filth elder” John Waters (b. 1946) is the very definition of a self-made American iconoclast. Inspired by showman William Castle, early exploitation producer Kroger Babb, and underground experimental filmmakers such as the Kuchar Brothers (George and Mike, featured in our Available Space series on Friday, September 22), Waters’s anti-establishment vision is crystal clear from his first 8mm short, Hag in a Black Leather Jacket (1964), to his most recent film, A Dirty Shame (2004). Serving as director and writer for each of his films—and as producer, cinematographer, and editor on his first eight—Waters never fails to push the boundaries of good taste and challenge traditional institutions with every artistic endeavor, including his much-anticipated annual Artforum top 10 lists and his one-man show, This Filthy World.  

Location : Academy Museum ( 6067 Wilshire Boulevard Los Angeles, CA 90036 United States )

Museum Hours : Open six days a week, 10am–6pm ( Closed Tuesdays )

Open Period : September 17, 2023 – August 4, 2024

展示会サイト academymuseum.org

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。