Sep 07, 2023 column

第36回:Apple TV+が力を入れるSFシリーズ「サイロ」の魅力

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今秋11月に公開予定だったSF映画『デューン砂の惑星 PART2』の全米公開が来年4月12日に延期となった。その理由は長引いている全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG -AFTRA)のストライキによって、主演俳優、とくに、映画『デューン砂の惑星PART2』の公式インスタグラムで71%の支持を得ている女優ゼンデイヤが、宣伝活動に参加できないことが大きな理由のようだ。

SF映画に期待できないならと、ディズニープラスの『スターウォーズ』新スピンオフ「アソーカ」も視聴してみるが、中身の濃いSF世界に飢えている視聴者にとってはたぶん物足りない。そこで朗報!オリジナル作品のみで、他社との差別化をはかるApple TV+ (プラス)は、知る人ぞ知るSFに力を入れている配信サービス。注目作は今年5月に全世界公開された「サイロ」シーズン1。ザ・ワープ誌が注目したパロット・アナリティクス統計によると、5月27日から6月2日の配信人気統計で同時期にNetflixで配信されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演の「FUBAR」を超える24.4倍の比率で需要があり、最も勢いのある人気シリーズという結果が発表されているので、このコラムでも紹介したい。

「サイロ」は1回観ただけでは分からない !

「サイロ」のオープニングは、とっつきにくい。なぜなら、第1話に登場する主要人物が、続々と死んでいき、ヒロイン、ジュリエットの登場はほぼ第2話以降から始まるという構成にある。この冒頭は原作通り。最初、Kindle Direct Publishing で2011年に始まったサイロ3部作(「ウール」「シフト」「ダスト」)は、完結するまで1冊99セントで、連載形式のバラ売りで徐々に読者のハートを掴んだディストピア小説。原作者ヒュー・ハウイーは現在でも、ネット上で読める小説「ウール」の権利を独自で保持するという、ビジネスセンスのある作家。サイロとは、英語では穀物を貯蔵するための搭状建築物のことだが、原作のサイロは地下に埋れた144階建ての巨大な塔のことで、地球が滅び、汚染されて住めなくなった近未来、塔の中で生きることを余儀なくされた1万人の暮らしが舞台となっている。

サイロには何でもある。地下では、電力や資源が製造、貯蓄され、作物栽培、畜産農場も(全てが)自給自足で、それぞれ専門フロアで営まれている。ゴミも全てがリサイクルされる環境を考えられた完璧な仕組み。塔の中央フロアに君臨するのが謎のIT部門。司法、行政、そして立法業務が上階に設けられ、社会階層を反映した塔の構造が、コンクリートの螺旋階段を軸に浮き彫りになる。サイロで生きる人々にとって、塔の中は一都市で、人々が参政権を持ち、市長を選ぶという民主主義社会。しかし、真摯な警察官の死をきっかけに、その正統に見えた社会は上部だけで、影の存在がサイロの言論、思想統制を厳しく取締り、人口を増やさないための女性の避妊政策も不公平であることが徐々に明らかになっていく。塔で暮らす人々は誰が何のためにサイロを作ったのか一切説うことを許されない。市民の好奇心は摘み取られ、過去や歴史と断絶された閉寒感の中で、堅牢なシステムを受けいれる従順な人々が、限られた小さな喜びの中で生きているのである。

TVシリーズは、原作と同じように始まりながら、中味はかなり脚色されていて、サイロを支配する陰の人物を暴いていくヒロイン、ジュリエットのモチベーションがより分かりやすく描かれている。原作者ヒュー・ハウイーもエグゼクティブ・プロデューサーとして関わっているこのシリーズ。原作権は、20世紀フォックスや製作会社ライオンズ・ゲートで映画化も試みられたが Apple TV+がこの配信シリーズとして丹念に構想を膨らませ、成功するまでに約10年かかっている。脚本/ クリエイターであるグラハム・ヨストは、サンドラ・ブロックのデビュー作『スピード』(1994)の脚本家。「サイロ」原作を脚色するにあたり、塔の中のハイテクなIT環境と対照的に、アナログ世界のノスタルジックな機械や冊子などの小物を使ってビジュアルの面白さを際立たせたこのシリーズ。サイロの謎は、カタツムリのようなペースでじわじわと提示され、そのじれったい構成は、第3話から一気に動き出し、視聴者が翌週まで待てなくなるほどのサスペンスの連続で全10話が終了。シリーズ2の制作もすぐに決定したが、現在のストライキの影響で、リリースは早くて来年末か、2025年までお預け。配信シリーズで原作のことを知った視聴者は真相解明のため、私も含め、公共図書館の貸出リストを漁り、Eブック、オーディオブックも含め、11ヶ月待ちのところもあるなど、確実なファン層がApple TV+の「サイロ」シリーズ2を心待ちにしている。

バーンズ&ノーブル書店チェーンのSFコーナーで並ぶ「デューン 砂の惑星」と並ぶ「サイロ」原作3部作。本屋にはApple TV+「サイロ」シリーズの秘密を握るペズ(オーストラリア発祥のペパーミントキャンディーの入れ物)も売られていた。