Apr 26, 2023 column

第30回:ベン・アフレックの挑戦

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この脚本はスペック(スペキュラティブ)・スクリーンプレイと言われる、脚本家が独自の発想で完成させ、うまく行けばオプションされてプロデューサーに買ってもらえるかもしれないという、買い手が決まっていない脚本だった。

シカゴ出身でマイケル・ジョーダンに憧れて育ったという脚本家アレックス・コンベリーはこの作品が脚本家としてのデビュー作となる。自身にインスピレーションを与えたスーパースターの映画をいつか作りたいと夢見ていたが、エージェントからは、実現の難しい映画をスペックにするのは避けるようにと言われていたそうだ。願望をとめられずに完成させた脚本に興味をもったベン・アフレックから会いたいという問い合わせを受け、まさか脚本が実現されるなんて夢のようだったとサプライズ上映となったSXSWの映画祭最終日で喜びを表していた。

30歳でデビューとなったアレックスの笑顔は、マット・デイモンとベン・アフレックが『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』が映画化されたときのインタビュー時の笑顔に似ていて、すがすがしい。アカデミー賞を受賞して以来、ベン・アフレックはアルコール依存、離婚など、タブロイド紙を騒がせてきた。去年はジェイロー (ジェニファー・ロペス) との関係が復活し結婚。どちらかというと、にやけた軽いイメージが定着した感もあったが、忘れてはならないのが、彼がアカデミー賞受賞作品『アルゴ』(2012) の監督でもあること。

さまざまな修羅場を乗り越え、スーパーヒーローものには関わらないと言いつつも、今年、全米で6月公開の期待作『ザ・フラッシュ』でマイケル・キートンのバットマンと自身の演じるバットマンが共演するなど、あらゆる面で多才なベン・アフレックである。

主役ソニー・ヴァッカロを演じるマット・デイモンは『オデッセイ』(2016) や『フォードvsフェラーリ』(2020) など、感動を呼び起こす主人公を演じてきた。ベン・アフレックに比べると、作品選びも慎重で『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』のガス・ヴァン・サント監督や『ボーン・アイデンティティ』(2003) シリーズのポール・グリーングラス監督と仕事をしてアクションスターとしても定着するなど、家庭も安定した4人の娘の父親である。

リドリー・スコット監督『最後の決闘裁判』(2021) で脚本をニコル・ホロフセナーとベン・アフレックの3人で共同執筆して以来、ベンとのコラボが復活したという。売れない俳優時代を経て、有名になってからの数年間の間、戸惑った時にいつでも相談できる相手として存在していたマット。ベンが離婚後もお互いの家族を含めた友人関係は変わらず、お互いの人生を支えてきたという。

共同会社を成立後、主役ソニー・ヴァッカロについて学び、一社員として、その情熱と人となりを知り、より一層、演技にもに力が入ったというマットを支えるナイキのチームを支えるのが、ジャッキー・チェンとの映画『ラッシュアワー』(1999) で有名なクリス・タッカー、TVヒットシリーズ「オザークへようこそ」(2017~) のジェイソン・ベイトマン、紅一点でマイケル・ジョーダンの母親役を演じているのが、ヴィオラ・デイヴィス。映画では80年代に流行った音楽がふんだんに使われていて、負け犬だった主人公が到底勝ち目のない目標を勝ち取るという爽快な映画に仕上がっている。

文 / 宮国訪香子

作品情報
『AIR/エア』

1983年、ナイキ本社。ソニー・ヴァッカロは、CEO であるフィル・ナイトからバスケットボール部 門を立て直すよう言い渡される。業界の負け犬だったナイキチームは、無名の選手マイケル・ジョーダンを見つけ、今までのルールを変える一発逆転の賭けと取引に出るのだった。

監督:ベン・アフレック

出演:マット・デイモン、ベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、クリス・メッシーナ、マーロン・ウェイアンズ、クリス・タッカー、ヴィオラ・デイヴィス

配給:ワーナー・ブラザース映画

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公開中

公式サイト movie/air

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。