Feb 10, 2023 column

第25回:作り手のレガシーが息づく!「キャシアン・アンドー」と爽快怪奇な「ウェンズデー」

A A
SHARE

ハリウッドの人気タイトル続編やスピンオフが当たり前になった近年。著作権が無料になった「クマのプーさん」(A.A.ミルン著)のホラー実写映画『ウィニー・ザ・プー・ブラッド・アンド・ハニー(原題)』が今月15日に全米公開予定。オリジナルの作家の意図から全く離れた悪夢のような映画が大反響。子供のころに読んだ絵本の世界感を破壊するコンセプトとビジュアルなのだが、すでに公開されたメキシコでは大ヒット。続編契約が更新されたということでハリウッド業界も話題である。

当たれば、それを続けるのがハリウッド式。監督リス・フレイク=ウォーターフィールドは著作権が切れたピーターパンのキャラクターを使ったホラー映画など、30歳までに100本以上の映画をプロデュースすることを誓い、これまでに安価で作れるホラー映画の可能性を追求してきた。

著作権がまだ生きているディズニー公式アニメ『くまのプーさん』に触れないように内容や登場人物に注意を配ったこの作品。人気タイトルを好き放題に変解させる作り手の世代間格差はあきらかで、今後、原作者の思想や感情が反映されない著作権フリーの映画が増えてくる流れもある中、今回は、作者の意図を忠実に守ってそのユニバースを面白く展開させた、米人気配信ドラマのクリエイターに注目してみた。

「マンダロリアン」に続く新旋風ドラマ「キャシアン・アンドー」

来月ディズニープラスから全世界公開される「マンダロリアン」シリーズ3。スターウォーズの全米ファンから熱いエールが送られているのは「マンダロリアン」だけではない。映画『ローグワン/ スター・ウォーズ・ストーリー』の外伝「キャシアン・アンドー」シリーズもまた、ルーカスの作り上げた世界観を膨らませて、新旧ファンに人気である。

去年の暮れにデビューしたドラマ「キャシアン・アンドー」。主人公は映画の主人公ジン・アーソの救出にあらわれる反乱軍の主要メンバーで、情報将校であったアンドーのこと。帝国の究極兵器「デス・スター」の秘密の設計図を盗む任務のために映画の中で命をおとすヒーローで、その映画の5年前という設定で始まる。ドラマシリーズでは、アンドーが帝国軍の炭鉱跡で生き残った原住民であったこと、その時に離れ離れになった姉を探していることなど、冒頭で生い立ちが説明される。怖いもの知らずで無鉄砲だったアンドーが、ギャラクシーの運命の担い手になるまでを描いたこのシリーズは、3話からぐんと面白くなる。

ジェダイもダースベイダーも登場しないこのドラマ。シリーズのクリエイター、トニー・ギルロイは映画『ジェイソン・ボーン』シリーズ、『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の脚本も手掛けたストーリーテラーで、物語の核になってくるのはジョージ・ルーカスが作り上げたシスの暗黒卿、シーヴ・パルパティーンによって進められた巨大宇宙要塞デス・スター。シーズン2では、そのデス・スターの建造過程と虐げられた人間関係がより明らかになっていくそうで、色濃いプロットが期待されている。

アンドーを演じているのが、子供のころから映画『スター・ウォーズ』の大ファンだったというディエゴ・ルナ。彼の演じたアンドーが人気なのは、スーパーパワーをもたない、ごく普通の人間が使命感をもったことで何かを変えていく底力。ディエゴの親近感のある役作りは映画『天国の口、終りの楽園』のときから定評がある。

そのほかの登場人物もおもしろい。帝国軍側の警備員だった若いシリル・カーンは野心家。アンドーを逃した失敗で、帝国軍の現場から干され、事務処理にまわされる役。カーンを中心に帝国軍側の上下関係やカーンの私生活がコミカルに描かれている点がおもしろい。シリルは自分を欺いたアンドーに執着し、再度、帝国軍に舞い戻って、宿敵を追い詰めていく役で、俳優カイル・ソーラーが魅力的である。

反乱軍のメンバーをリクルートするルーセン・ラエルの役を演じるのが俳優ステラン・スカルスガルド。政治にもかかわる賢者のオーラにあふれ、アンドーを試し、最終的に信頼できる反乱軍を率いるリーダーとして見届ける役を演じていて、役者陣も力強い。