Dec 26, 2022 column

第22回:2022年 − ハリウッドで映画化された話題の洋書4選

A A
SHARE

『ボーンズ アンド オール 』by カミーユ・デアンジェリス

映画『君の名前で僕を呼んで』の主演で一躍スターダムに登った男優ティモシー・シャラメ。監督ルカ・グァダニーノと再び組んだ映画『ボーンズ アンド オール』は今年のヴェネツィア映画祭で、最長のスタンディング・オベーションを得たとヴァラエティ紙が発表。この映画は今年のアカデミー賞前哨戦でもノミネーションの対象になっていて、話題のインディペンデント映画である。

ヴァラエティ紙 / アカデミー賞前哨戦に向けられた宣伝ページ (写真提供:宮国訪香子)  

シャラメのファンなら当然、何があっても映画館に足を運ぶことは間違いないのだが、原作は人食い人種の純愛物語というホラーのジャンルにも入るような異色作。米ヤングアダルト層に向けた小説に与えるアレックス賞(全米図書館協会賞)を受賞したファンタジー小説だが、米グッドリーズでは、原作の好き嫌いがほぼ半々に分かれている。

米作家カミーユ・デアンジェリスはユニークなビジョンの持ち主で、自身が菜食主義者になって世の中の見方が変わったと、菜食主義を推進する作家で、人を食べる描写はグロテスク。人を好きになるとその人を食べてしまうというコンセプトは笑わずにはいられなく、とんでもない主人公になぜか心惹かれてしまうのである。

物語の始まりは1980年、米国南部のヴァージニア州。18歳の少女マレンは自らが人食い人種だと知り、幼いときに家を出た母(原作では父)をさがして旅を始める。ノマド生活をする人食い人種の若者リー(ティモシー・シャラメ)に出会い、旅をしながら2人は恋に墜ちていくというロードムービーの映像は、残虐なシーンとは対象に美しい。

主人公を演じるのは若手女優テイラー・ラッセル。助演するのは個性的なクロエ・セヴィニーやマイケル・スタールバーグと、どの登場人物も毒があって目が離せない。人食い人種の純愛物というとんでもない世界観はデート映画におすすめ。日本ではバレンタインデーのすぐあとに映画が公開するようだが、先に原作本を読んでいても、映画も十分に楽しめることは間違いない。

ヤングアダルトのコーナーの原作本「ボーンズ アンド オール」※右下 (写真提供:宮国訪香子)

『幸せなひとりぼっち』by フレドリック・バックマン

原題は「A Man Called Ove」でこの本が英語に訳されたのが2013年。NYタイムズのベストセラー本として42週間ナンバーワンとなり、スェーデン出身の作家フレドリック・バックマンの名前は一躍、有名になったのである。

主人公オーヴェ伯父さんは小難しい老人。ルールを守らない若者や、知識のない店員にいらつく毎日。さらには、縦列駐車もできないのに大型車を運転する隣人まで登場。しかし、その隣人の妻もまた、運転の下手な夫の不甲斐なさを認め、オーヴェ伯父さんに同意し、2人は不思議な意志の疎通を経験するのである。

オーヴェ叔父さんには目的があった。それは他界した最愛の妻を追って自ら命をたつこと。しかし、彼の目的はその隣人家族に何度も邪魔される。夫の代わりに縦列駐車をしてくれたお礼にと、食べたこともないイラン料理をタッパーに入れて届ける夫婦の幼い娘たち。おせっかいで暖かい新しい隣人の妻は、オーヴェ伯父さんをなかなか一人にしてくれないのである。

物語は、外見からはわからないオーヴェ伯父さんの心痛を、新しく引っ越してきた移民家族が癒していくというヒューマンコメディになっていて、作家フレドリック・バックマンの人間描写も読みやすく、何度読んでも胸が熱くなる一冊である。

最初にこの原作が映画化されたのは2015年。作家と同じくスウェーデン出身のハンネス・ホルム監督が映画化し、米アカデミー国際長編映画賞にもノミネートされた秀作。そして今年、原作と外国語映画の両方をもとにリメイクされた映画が『A Man Called Otto(原題)』。

原作のオーヴェ叔父さんの名前がアメリカ映画ではオットー叔父さん(写真提供:宮国訪香子)

主演は今年公開の映画『エルヴィス』や『ピノキオ』にも助演して多忙なトム・ハンクス。先月行われた記者会見でも上機嫌で、365日プロデューサーといっしょに過ごしたおかげで、この役をゲット出来たんだよと、プロデューサー兼、妻のリタ・ウィルソンの情熱を話しながら、場内を沸かせていた。

脚本を担当したデヴィッド・マギーはスェーデンの映画を先に観て、そのあと原作を読んだそうで、舞台をアメリカに移した場合に、どうしたらこの原作が生きるかを考えて、イランの移民家族を、メキシコ移民に書き直したりと脚色に工夫をこらしたという。監督のマーク・フォースターもメキシコ移民対策などで分断するアメリカ社会において、多民族コミュニティのふれあいを考える作品になってくれたらと映画の出来栄えに満足そうであった。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ボーンズ アンド オール』

生まれつき、人を喰べてしまう衝動をもった18歳のマレンは初めて、同じ秘密を抱えるリーという若者と出会う。人を喰べることに葛藤を抱えるマレンとリーは次第に惹かれ合うが、同族は喰わないと語る謎の男の存在が、2人を危険な逃避行へと加速させていく。

監督:ルカ・グァダニーノ

出演:ティモシー・シャラメ、テイラー・ラッセル、マーク・ライランス

配給:ワーナー・ブラザース映画

© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

2023年2月17日(金) 全国公開

公式サイト Bonesandall.jp

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。