Dec 26, 2022 column

第22回:2022年 − ハリウッドで映画化された話題の洋書4選

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先週、米書店チェーン、バーンズ&ノーブルが30店舗増やすことを発表した。パンデミックで読書を再発見した層やTikTokの#BookTokなど、ジェネレーションZが求める本屋のニーズに応え、“本の虫”である店員を採用することで、顧客に愛される本屋として息を吹き返したという。

写真提供 / 宮国訪香子

米エンタメ・ウェブマガジンVOLTUREによると、今年、原作本からコンテンツ化された作品は60作品あるそうで、鶏が先か、卵が先か、原作を知らずに映画を観ることも増えてきた今日。読書好きにとっては、主人公のイメージがすでに作りあげられていることもあり、映画化された作品を観るのは不安。しかし、映画も原作もと欲張ってみるのは意外と楽しく、年末年始だからこその過ごし方に最適かもしれない。

『ザリガニの鳴くところ』by ディーリア・オーエンズ

この映画の原作本は全米空前のベストセラー。著者ディーリア・オーエンズはジョージア州出身の動物学者で、ボツワナのカラハリ砂漠での経験をもとにしたノンフィクション体験記「カラハリーアフリカ最後の野生に暮らす」(夫のマーク・オーエンズとの共著)を出版したのが彼女が67歳の時。

70歳で小説家デビューした著書「ザリガニの鳴くところ」は、父親の虐待によって母、そして姉弟と家族メンバーが一人一人去り、湿地帯に一人残された幼い少女の物語。貧しくて汚い身なりを理由に、町中の偏見の対象となってしまう少女カヤ。孤独に耐えながら、しだいに初恋、少女から大人の女性へ成長していく過程は湿地帯の生態系の一部として生きる心構えを学ぶような感覚。

本能で生きる方法しか知らなかった主人公カヤの運命は、原作の後半に始まるカヤを取り巻く裁判で、さらにスリリングな展開になって盛り上がるのである。日本でも2021年の本屋大賞の翻訳小説部門にえらばれたそうで、劇場公開された映画に、期待と不安を抱いていた人は大勢いたはずである。

この原作は、米アマゾン・ドット・コムで179週間、売れ行きナンバーワンに君臨し、アマゾンで最も売れた本と称されている。さらに映画がネットフリックスで配信されてから、売り上げナンバーワンに舞い戻ったという記録的な原作。

もちろん原作のファンにすれば、映画の評価は厳しく、サスペンスあふれる裁判ドラマが中心になってしまったとLAタイムズでは不評。私も英国女優オリビア・ニューマンのアメリカ映画デビューに注目していただけあって残念だったが、映画を先に観た人は是非、それを導入にして原作を読み直すことをお勧めしたい。

主題歌「Carolina」(テイラー・スウィフト) のLP / 原作本「ザリガニの鳴くところ」 ※右下 (写真提供:宮国訪香子)

『ミセス・ハリス、パリへ行く』by ポール・ギャリコ

アメリカ人作家ポール・ギャリコは元スポーツライターで、彼の名は知らなくとも、70年代パニック映画の傑作「ポセイドン・アドベンチャー」の原作者なのである。作家があちこちに旅をした経験も含めて、このミセス・ハリスのシリーズはパリ、モスクワなど、シリーズ全4巻。この映画版の意外なヒットに、アメリカンクラシックとなっていた著者ポール・ギャリコの著書をまた読み始めたという人も多いことが米グッドリーズのコメントで読み取れる。

原作本:ポール・ギャリコ「Mrs Harris Goes to Paris & Mrs Harris Goes to New York」

映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』は1950年代、第2時世界大戦後のロンドンが舞台。夫を戦争で失った家政婦ミセス・ハリスが、勤め先の家で運命の出会いに遭遇する。それは男ではなく、ディオールのドレス。戦争で夫が残してくれた資金をもとに、夢のドレスを購入すべく、パリのディオール本店を訪れるが、家政婦には売りたくないそぶりで、軽くあしらわれる。簡単にはくじけないミセス・ハリス。ディオールのお針子など、ブランドを陰で支える人たちに出会い、そのパリジェンヌたちのハートを虜にしていくのである。

主演は英国女優レスリー・マンビル。ネットフリックスの「ザ・クラウン」新シリーズではプリンセス・マーガレットを演じていていたりと演技の幅も広く、現在、映画にTVシリーズにとひっぱりだこである。映画の衣装デザインはもちろんディオールと提携しているが、そのコラボを担当したのが、『クルエラ』『マッドマックス』など、アカデミー賞衣装デザイン賞を何度も受賞している衣装デザイナー ジェニー・ビーバン。

COURTESY OF CHRISTIAN DIOR ; COURTESY OF DAVID LUKACS/2021 ADA FILMS LTD – HARRIS SQUARED KFT

2時間の映画でファッショナブルなパリに旅したような気分になれるこの映画。ポール・ギャリコの原作本もかなり翻訳されているようなので、さらなる映画、プラス読書が楽しくなるはずである。