Sep 01, 2022 column

第16回:実写、ドキュメンタリー映画、そしてリミテッドシリーズのIP権争奪戦になったタイ洞窟決死の救出劇

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とくに共感を得るのが、英国人ケイブダイバー、リック・スタントン。「英国でも全く人気のないケイブダイビングに注目が集まるなんて、滅多にないことだよ。」とにこやかにコメント。ケイブダイバーというと、美しいサンゴ礁の海底洞窟の探検ダイビングを思い起こしがちだが、英国のケイブダイビング専門家たちの目的は、水文地質学の研究用だったりと専門的。

海底の狭くて暗くて洞窟に浸水した水流は石炭になりかけの泥炭にまみれ、そのほかの沈殿物で構成されて視界も最悪。長距離で潜るためのダイビング器具も含め、専門家の知識がとても重要だったことが窺える。彼の役が映画『13人の命』のヴィゴ・モーテンセン役で、スタントン自身、この映画の潜水アドバイザーとしても関わっている。

9月22日より全世界でネットフリックス配信開始のリミテッドシリーズ『ケイブ・レスキュー:タイ洞窟決死の救出』

地元タイのサッカーチーム「ワイルド・ボアーズ(訳:野生の猪)」のサッカー少年たちにフォーカスを移して描かれているのが全6話で構成されているこのシリーズ。季節はずれの豪雨のために、遊びに行ったタムルアン鍾乳洞に閉じ込められるまでの少年たちと家族、そして国境近くでタイ人ではなかった若いコーチ、エイクの複雑な心情にも焦点を当てている。

クリエイターは、マイケル・ラッセル・ガンとデイナ・ルドゥー・ミラー。監督は「ボバ・フェット/The Book of Boba Fett」のケヴィン・タンチャローエンを含む3名のタイ人。潜水スタントには、映画『13人の命』でオーストラリア人男優ジョエル・エドガートンが演じている実在のケイブダイバー兼麻酔医師のリチャード・ハリス(通称ハリー。)

史上最悪なシチュエーションと困難な救出劇は、救出したヒーローたちに焦点が行きがちだが、救出隊が現れる前の10日間以上も食べ物も水も少ない状態で、どのような精神状態で少年たちが生き延びたかはそれ自体が奇跡。仏教徒の多い村で、瞑想によって子供達の精神力が鍛えられていたのではという声も大きい。地元で言い伝えられていた悲恋の山の神への家族の祈りも含め、前に触れた映画ともまた違った、グローバルなネットフリックス視聴者向けのコンテンツとして、タイ人の豪華キャストが結集した意欲作に仕上がっている。

文 / 宮国訪香子

作品情報
Netflixリミテッドシリーズ『ケイブ・レスキュー: タイ洞窟決死の救出』

2018年のある日の午後、サッカーチームの少年12人が、コーチと一緒にタイ北部のタムルアン洞窟を探検することに。しかし大雨で洞窟が浸水し、彼らは閉じ込められてしまい、楽しいはずの小旅行は一転、世界中をくぎ付けにするほどの大規模で国際的な救出作戦が展開される事態になってしまう。 その知られざる驚くべき物語を、救出対象となっていた少年たちの視点を通して6話構成で描く。

監督・製作総指揮:バズ・プーンピリヤ
監督・製作総指揮:ケヴィン・タンチャローエン
ショーランナー・脚本家・製作総指揮:マイケル・ラッセル・ガン
共同脚本・製作総指揮:デイナ・ルドゥー・ミラー

2022年9月22日(木) Netflixで配信開始

公式サイト netflix.com/title/81305964

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。