Jun 28, 2022 column

第13回:ディズニー・ピクサー新作『バズ・ライトイヤー』、そして観光産業をも盛り上げるディズニーの手腕

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主人公のカマラ・カーンを演じるのが、今回、大役に抜擢された若手女優イマン・ヴェラーニ。快活でカリスマ性のある主人公を堂々と演じ、モスクのシーンや、イスラム教徒の男女差別の場面など、異文化や対立をやさしいスーパーパワーで包んでいる点がすばらしい。

© 2022 Marvel

マーベル・コミックスの歴史は長い。億万長者の起業家トニー・スタークが一部機械化した心臓で突き動かすアイアンマン、天才科学者ブルース・バナー博士が罪なきものを救ったために、スーパーパワーのDNAを保持して目覚めた巨体のハルク、アイアンマンに憧れる高校生ピーター・パーカーが放射能を浴びたクモに噛まれたことで、驚異的なクモのように、ビルからビルへ張り付くスーパー腕力で、正義の見方スパイダーマンとして成長していく。これらのシリーズが長寿である理由は、主人公それぞれが、社会や家族から理解されなかった人物が、ひょんなことでスーパーパワーを保持し、それぞれの運命と立ち向かうというプロットにある。

原作「ミズ・マーベル」のクリエイターの一人、ムスリム系アメリカ人女性サナ・アマナットはそういったコミックスに夢中だった高校生の一人。911の際、当時、高校生だった彼女が、テロリストの民族だとしてレッテルを貼られたことが、この女子高生スーパー・ヒーローを作り出す要因になったと話す。オバマ元大統領にも招かれて、新しいスーパー・ヒーロー像を作り出したあなたこそがスーパー・ヒーローですとホワイトハウスで祝福されたなど、今現在、多様化が謳われるアメリカでも先端を走っていたことが窺える。

© 2022 Marvel

テレビ版のクリエイターはビシャ・K・アリという若手女性脚本家兼、コメディアン。パキスタンと英国、そしてサウジアラビアで幼いころを過ごし、アメリカのケーブルTVが心の支えだったという彼女の脚本はめざましいもので、この「ミズ・マーベル」シリーズ他、「セックス・エデュケーション」、「ロキ」海外ドラマシリーズなど、数々のヒット作に引っ張りだこである。

「ミズ・マーベル」はテレビシリーズのヒットを得て、主役のカーンもディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パークのアベンジャーズ・キャンパスに参加することが決定。ショップ・ディズニーのサイトではカーンのアクション・フィギュアやコスチューム、バックパックなど、その人気を明らかにしていて、多様化するアメリカ社会を反映した新シリーズとして、ターゲットを射止めた成功例といえる。

©Disney
Avengers Campus ©Disneyland California

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『バズ・ライトイヤー』

有能なスペース・レンジャーのバズは、自分の力を過信したために、1200人もの乗組員と共に危険な惑星に不時着してしまう。地球に帰還するため、バズは猫型の友だちロボットのソックスと共に不可能なミッションに挑む。その行く手には、ずっと孤独だったバズの人生を変えるイジーや個性豊かな仲間たちと、思いもよらぬ“敵”が待ち受けていた。「トイ・ストーリー」で誰よりも仲間思いのバズ・ライトイヤーの、知られざるルーツを描く感動のファンタジー・アドベンチャー。

監督:アンガス・マクレーン

キャスト:クリス・エヴァンス

日本版声優:鈴木亮平、今田美桜、山内健司・かまいたち、三木眞一郎、磯辺万沙子、銀河万丈、沢城みゆき / りょう

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

©2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

2022年7月1日(金) 全国公開

公式サイト disney.co.jp/movie/buzzlightyear.html

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。