ドラマでは、働きざかりの女性編集長や、存在感のある黒人テレビウーマンなどが登場。#MeTooのほぼ50年前に、男性社会の中で苦戦する女性たちの職場環境を浮き彫りにしている。男性シェフが素人のジュリアが料理本を出版しただけでなく、料理番組まで立ち上げて人気者になったことを批判するエピソードもあれば、「ジュリア・チャイルドの料理番組は、主婦をより一層、キッチンに長く立たせて、地位を後退させる番組だ。」と主張するフェミニストの女性が現れたりと、敵も多かったことが分かる内容になっている。
「この女優がいなければシリーズの成功はなかった」と、クリエイターが断言しているのが主演で、ジュリアを演じている英国女優サラ・ランカシャー。英国アカデミー賞のTV部門で、何度も再優勝ドラマ賞に輝いた犯罪ドラマ「ハッピー・バレー 復讐の町」で、2017年に主演女優賞も受賞したランカシャーは現在、その長寿シリーズと新シリーズの両方の撮影をこなしているそうだ。夫役にTV番組「そりゃないぜ!? フレイジャー」で人気だったデヴィッド・ハイド・ピアース。友人役にブロードウェイのベテラン女優ビビ・ニューワース。ジュリアの料理仲間で共に本を共著した仏女性の役にイザベラ・ロッセリーニが出演するなど、豪華なキャスティングである。
70年代のフェミニストが題材のドラマ「Minx(原題)」
70年代のフェミニストが題材のドラマシリーズ「Minx(原題)」。1972年から6年ほど存在したという女性のためのポルノ雑誌「VIVA」にインスピレーションを得て作られたというこのドラマは、ほぼ無名の個性派俳優が勢揃いしている。女性の権利を頑なに唱え、いつか編集長になりたいと夢みる女性ジョイスは、フェミニストの主張をまとめた雑誌を出版するために奮闘するが、誰も相手にしてくれない。ロサンゼルスで出会った男性ポルノ雑誌の編集長が彼女のアイディアに興味をもち、女性が男性の裸体を見て何が悪いと、フェミニストのアイディアを逆手に利用してセンセーショナルな雑誌を出版することを提案。全米初のフェミニスト雑誌「ミンクス」が登場するという物語である。
今春、好評だった海外ドラマは、アメリカが勢いにのっていたベビー・ブーマー時代を反映している作品が多く、奥が深い。「武器より花を」のスローガンで、花柄のワンピースやパンタロンをきたりしていたヒッピー時代の先覚者たちの話がなぜ、現在に通じるのか。主流の文化とそれに異議を唱える対抗文化の衝突でアメリカという国が改革されてきた流れを考えると、現在のアメリカの方向性を模索しているような海外ドラマの数々は必見。真意検証しながら、視聴することをおすすめしたい。
文 / 宮国訪香子