Mar 09, 2019 column

『運び屋』『グラン・トリノ』のイーストウッドは“表と裏”!その関連性と魅力に迫る

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脚本ニック・シェンクが描く、イーストウッドの表と裏

 

『グラン・トリノ』と『運び屋』には、多くの共通点があることは間違いない。監督、主演、脚本が同じであることはもちろん、主人公はどちらも退役軍人であり、家族とうまくいっていない白人の老人だ。そして、どちらもイーストウッドが演じることで別の意味が出てくるという役どころでもある。

脚本のシェンクは、本作の主人公アール・ストーンという人物を描くにあたり、『グラン・トリノ』同様、イーストウッドが念頭にあったのは明白だ。『グラン・トリノ』でイーストウッドが演じたウォルト・コワルスキーは、俳優人生の集大成とも言うべき役だった。戦争で人を殺し、そのトラウマを抱えた男の贖罪のストーリーは、映画の中で多くの人を殺してきた俳優としての贖罪とも受け取れる。だからこそ、あのラストには大きく心を揺さぶられた。

 

『グラン・トリノ』(Blu-ray・DVD 発売中) ©2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 

そんなウォルトをイーストウッドの“表”とするなら、本作の主人公アールはまさに“裏”。俳優ではなく、“人間”イーストウッドの集大成とも言える役柄だ。

アールは仕事ばかりで妻はほったらかし、娘の結婚式でさえすっぽかし、かれこれ10年以上口もきいてもらえない。しかし、仕事では園芸界のスターとして多くの友人から慕われている。金に困って始めた麻薬の運び屋稼業でもギャングたちから慕われ、組織に招かれたパーティでは若い女性を2人同時に相手にしてしまう元気な老人である。

イーストウッド自身もプレイボーイとして知られ、正式な結婚は2度だが、不倫を含む数多くの交際を経て、7~8人の子供をもうけている。少なくとも家庭を大事にしてきたタイプではないだろう。そして本作には、主人公アールの娘アイリス役として、実娘アリソン・イーストウッドが出演しているのだが、彼女が最低の父親だと罵倒するシーンは演技を超えた迫力。まさにイーストウッドの自虐ネタだろう。

 

 

主人公の名前が違うため、実在した運び屋レオ・シャープの真の姿とは異なるのかもしれないが、イーストウッドが共感し、創造した“運び屋の老人”の姿は、彼が演じることで凄まじい説得力を持つ。だからこそ観客は彼の行く末を案じ、固唾を飲んで見守ることができるのだ。

加えて驚くのは、10年ぶりとなる主演俳優イーストウッドの健在ぶり。共演したブラッドリー・クーパーによると、彼は御年88歳とは思えないほど元気なようで、本作で年寄りを“演じなければならなかった”のだとか。めったに演じることが無くなってしまったイーストウッドだが、その姿をまた見られるだけでも、この映画には十分に価値があるというものである。