この記事の担当さんから電話が来たときに、最近『ルパン三世』の周辺が騒がしいという話になった。そして、『ルパン三世』についての知識を聞かれ、「それ本気で聞いてます? 僕に『ルパン三世』の話をさせたら長くなりますよ?」と、少し前にネットで流行ったようなフレーズを前置きした上で、ほんとにムチャクチャ長い話をするという、迷惑行為同然のことをしでかしたのだが、以下はそんな感じの話である。
モンキー・パンチによる漫画の連載開始が1967年、つまり『ルパン三世』誕生から今年で50年だ。偶然にも僕と同い歳ということになる。 もう30年以上前に、たまたま読んだ週刊誌で「『ルパン三世』の各キャラクターは何歳くらいだと思うか?」というアンケートが載っていた。それが記憶に残っているのは結果が面白かったからで、当時40代の人も50代の人も「自分より年上だと思う」と答えていた。「不二子があなたたちより年上ってことはないだろうよ…」と苦笑はしたが、大人も楽しめるアニメとしてスタートしたTV第1シリーズが描いたアダルティな雰囲気が上手く伝わっていたということなのだろう。
第2シリーズ以降はアクションコメディの色が強くなっていったが、作品ごとにアダルティな路線もあればドタバタ劇もあるという、一面に捕われない現在の『ルパン』人気をも確立させた。 ルパンというキャラクター同様、作品もまた自由なのだ。
そんな『ルパン三世』の新作が公開された。 『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』である。この作品は12年のTVシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』の流れをくんでいる。『峰不二子という女』は『ルパン三世』から派生したスピンオフで、タイトルのとおり峰不二子を主人公とした作品だ。この作品ではルパンはサブキャラクターである。物語は不二子がはじめてルパンらと出会った頃。お馴染みの面々も登場するが、ルパンもまだ次元らと仲間になる前が舞台となっている。 特色はそれだけではなく、とにかくアダルトな作風なのだ。コメディ色は低く、そのかわりとにかくクールでハードボイルド。耽美でセクシーなシーンも多い。モンキー・パンチの原作コミックやTV第1シリーズ初期の雰囲気が強いといえば、おわかりになるかたもいるだろう。コミカルなルパンもいいが、アダルティなルパンも好きだったファンにとっては何十年ぶりかの待ち兼ねたルパンだった。 子供の頃は「ルパンがなぜ不二子なんて性格の悪い女にああもゾッコンなのかがわからない」と思い続けていたが、40も近くなったあたりから不二子の可愛さがわかってきた気がする。目の前に現れたらたぶん僕もコロッと騙されるんだろう。(笑)
その『峰不二子という女』から生まれたのが、同じくルパン以外のキャラクターを主人公としたスピンオフであり、小池健監督による中編作品『次元大介の墓標』と、新たに公開された新作『血煙の石川五ェ門』なのである。(ただし、「から生まれた」と書いたが、監督が異なることなどもあり後者を「小池ルパン」と別シリーズにしている人や記述も多い)
公開初日にさっそく『血煙の石川五ェ門』を見てきたが、その「大人ルパン」なテイストにシビれまくった。前作『次元大介の墓標』に続いてのこの空気の漂わせ方は、明確に「小池ルパン」というシリーズがあることを確立した。劇場公開ではあるが前後編あわせて54分であるので、厳密にはビデオ用作品の劇場配信ということになるのだろうが、その濃密さからくる満足度の高さはまさに劇場用中編だ。
今回の作品の舞台となっているのは、TVシリーズで五ェ門とルパンらが初めて会った頃。監督によれば五ェ門が初登場したTV第1シリーズ第5話『十三代五ヱ門登場』直後だとのことだ。お互いを知ってはいるがまだ仲間ではく、ルパンを殺す機会を狙っている。まだ己の剣術に過信を持っていた頃の五ェ門が、巻き込まれた事件での戦いを通し“その後の五ェ門”へとなっていく姿が描かれる。
余談であるが、五ェ門というキャラクターはちょっと特殊である。時代錯誤どころか、もはや時代を超越してしまっているクラシックな人物であり、そのスタイルは世界のどこに行って崩すことが無い。ある意味、もっとも筋が通っていて明確であるようでいながら、その描かれ方はルパン一味の中でもっとも作品によっての差が大きい。 初登場時はルパンを殺そうと狙っていた剣の達人。ためらわず敵を殺すこともあれば、近年の多くの作品ではほとんど人を斬っていない。他を寄せつけぬ空気を纏っている作品もあれば、コメディリリーフの優男であることもある。 その一貫性の無さは名前にも及ぶ。作品によって名前の表記が異なり、原作マンガは「五右ェ門」。TV第1シリーズは「五右ヱ門」もしくは「五ヱ門」。TV第2シリーズからかなり長い間は「五右ェ門」。最近のアニメ版では「五ェ門」に統一されている。
『血煙の石川五ェ門』では、「またつまらぬ物を斬ってしまう」ような五ェ門はそこにはいない。剣と強さを求め人を斬りまくる。 『ルパン三世』の最大の魅力はキャラクターだが、小池監督はそのキャラクター性の根源を掘り下げ、キャラクターの信念たる物は何か?を描く。本作を見終えたときには、次元、五エ門に続き、小池監督が描く他のキャラクターのスピンオフ作品も見たくてたまらなくなっていた。
作中設定を考えれば、今作での五ェ門はあきらかに50歳になる僕より年下だが、しかし、もしいま僕が「『ルパン三世』の各キャラクターは何歳くらいだと思うか?」と聞かれたら、やはり「自分より年上だと思う」と答えるだろう。「大人向けのルパン」が再現されたことの何よりの印象だ。たまにはイカすアニメ、イカしたルパンを見てみたい。そんな大人におすすめの作品だ。
他にも、50周年ということもあり、今年は『ルパン三世』周辺が騒がしい。『ルパン三世 カリオストロの城』のMX4Dでの上映。そして2月からはWOWOW・日テレ・Huluによる共同製作による実写ドラマ『銭形警部』が放送スタートする。銭形についても書きたいことは山ほどあるが、「僕に銭形の話をさせたら長くなりますよ?」なので今回は止めておこう。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)
『ルパン三世』(モンキー・パンチ (著)/双葉社)
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