Jan 28, 2022 column

謎に包まれるウェス・アンダーソンのメソッドを探る 『フレンチ・ディスパッチ』の緻密な“カオス”からみえる真髄とは

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また、ここにはアメリカとフランスに住居を構え、半年ごとに二国間を行き来しているウェス・アンダーソンから見た、異邦人としてのフランスの風景、そして異邦人として見たフランス映画の記憶が重なっているのだろう。いま思い返せば、「友達にはなれないけど、君のことは大好きだ」という『犬ヶ島』の名台詞は、犬と人間、そしてもっと広義なコスモポリタンとしてのステートメントであっただけでなく、幻影として消え去っていく映画の記憶へ向けられた、ウェス・アンダーソンによるパーソナルな告白だったのかもしれない。

レオス・カラックスから受けたインスピレーションに関しては、直接的にはティモシー・シャラメとリナ・クードリがバイクに乗るシーンのことで、ここでは『汚れた血』でバイクに乗るドニ・ラヴァンとジュリー・デルピーのイメージが参照されたという。『ホーリー・モーターズ』でジャック・タチの映画における丸型の窓のデザインを参照したレオス・カラックス。全く異なる資質としか思えない、この二人の映画作家の共通点は意外に多い。『フレンチ・ディスパッチ』には、多くの映画の記憶が「参考文献」としてスタッフ、キャストに提示されたことが明かされている。

しかしここで重要なのは、イメージの参照それ自体のことではなく、どこに作品との類似点を探していったかという部分、探求によるリ・クリエーションの軌跡だろう。それはフランスの地に居を構え、映画を撮影するウェス・アンダーソンの異邦人としてのパーソナルな視点と強く結びついている。ドイツ人映画作家ヴィム・ヴェンダースが撮ったアメリカ西部の写真集を、ウェス・アンダーソンはいつも振り返るのだという。異邦人の撮ったアメリカ西部の風景。ドイツ人映画作家が撮った作品の名は『パリ、テキサス』。テキサス出身でパリに移り住み、括弧付きの「フランス映画」を撮ったウェス・アンダーソンとの運命的な邂逅。