Sep 12, 2017 column

『ダークナイト』『インセプション』『ダンケルク』、世界が注目するノーラン作品を徹底分析

A A
SHARE

観客の期待値を遥かに上回った『インセプション』『インターステラー』、ファンの本能をくすぐるアナログへのこだわり

 

この『ダークナイト』あたりから、ノーランの新たな側面が顔を出す。それは徹底した“秘密主義”だ。筆者は『ダークナイト』の撮影現場に取材に行ったのだが、実際に撮影している場所は立入り不可で、別室でモニターを通してその日の撮影シーンを見るしかなかった。それくらい取材陣にも“できるだけ見せない”ことを徹底していたノーラン。『ダークナイト』以降は、作品の詳細をできるだけ明かさないことで、映画ファンの期待を煽ることになる。要するに、秘密主義も、オリジナリティを大切にする強い意志から生まれたのである。

 

5_☆INC-VFX-00029

『インセプション』(10)(C)2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

 

秘密主義によって高まる期待。天才といわれる映像作家は、その期待を軽々と超えなくてはならない。ノーランは続く『インセプション』(10)、『インターステラー』(14)で、その試練に立ち向かい、見事に成功を収めた。前者では、他人の夢に侵入し、その夢が何層にもなっているという斬新な設定を映像化。後者では、新天地を求めて宇宙に向かうSF的ストーリーに、時間の流れが異なる地球上でのドラマを巧みにシンクロさせた。ともに、観客の期待感を上回る、観たことのない映画へと成立した。

 

INTERSTELLAR, from Paramount Pictures and Warner Brothers Pictures, in association with Legendary Pictures.

『インターステラー』(14)(C) 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 

さらにもうひとつ、ノーランがこだわる映画本来のあり方がある。それはフィルム撮影だ。『ダークナイト』でIMAXカメラを使った彼は、それ以降、『インセプション』を除くすべての作品で、35mmのフィルムカメラとIMAXカメラを併用してきた。デジタル全盛の時代に、毅然と抗っているのである。重いIMAXカメラをわざわざ使うことで、観客の映像への没入感は確実にアップすると信じるノーラン。映画館で新しい世界を体験させるという、映画本来の目的を忠実に守っているのだ。フィルムへのこだわりは、すなわち実写へのこだわりであり、CGを極力使わないのもノーラン作品の特徴。『インセプション』では回転する巨大セットを作り、『ダークナイト ライジング』ではスタジアムに1万2000人ものエキストラを集めた。『インターステラー』の宇宙船もセットが基本である。このような映像は、CGでも対応できるのに(スタジアムの群衆は今や“コピペ”が常套手段だろう)、こうしたアナログへの過剰なこだわりが、映画ファンの本能をくすぐっているのは間違いない。

 

JOSEPH GORDON LEVITT as Arthur in Warner Bros. Pictures' and Legendary Pictures' science fiction action film "INCEPTION," a Warner Bros. Pictures release.

『インセプション』(10)(C)2014 Warner Bros. Entertainment Inc.