武士や庶民がピンチを切り抜ける姿に共感
ユニークな切り口の時代劇のおもしろさを世に知らしめた『超高速!参勤交代』で描かれるのは、通常10日はかかると言われる参勤交代を実質4日で行うように幕府から命じられた弱小貧乏藩の奮闘ぶりだ。佐々木蔵之介演じる藩主の内藤政醇が、お金も人も時間もない中で知恵と工夫をこらしピンチを切り抜ける姿は、観る者に高揚感と爽快感を与える。本作のおもしろさはそれだけじゃなく、佐々木をはじめ武具奉行で剣術の達人を演じた寺脇康文、そして一匹狼の忍を演じた伊原剛志といった渋い役者陣が体を張ったアクションやキレのある殺陣を披露しているのも見どころで、悪役を演じた陣内孝則など実力のあるキャストたちが作品にリアリティをもたらしていた。
続編として作られた『超高速!参勤交代 リターンズ』は、無事に参勤交代を果たした湯長谷藩一行が故郷に帰る道中でさらなるピンチに陥る姿が描かれる。湯長谷で起きた一揆を2日以内に収めないと藩のお取り潰しは免れないことから、行きの倍の速さで帰らなければならず、前作以上にハードなミッションに期待が高まった人も多いだろう。そして忘れてはならないのが、行きの参勤で有り金を使い果たし、持ち金ゼロという状態からスタートしているということ。このシリーズはお金をメインに焦点を当てた作品というわけではないが、ピンチの切り抜け方をエンタメとして見せる手法には唸らずにはいられない。『鴨川ホルモー』(09年)や『空飛ぶタイヤ』(18年)など幅広いタイプの作品を手掛けてきた本木克英が前作に続き『超高速!参勤交代 リターンズ』の監督を務めたこともあり、シリアスとコミカルのバランスが絶妙なのもこのシリーズの特徴と言える。
『決算!忠臣蔵』でも監督を務めた中村義洋が手掛けた『殿、利息でござる!』は、『武士の家計簿』の原作者・磯田道史による『無私の日本人』の一編『穀田屋十三郎』を映画化したものだ。江戸時代中期の仙台藩吉岡宿が舞台の実話で、藩の重い年貢によって夜逃げが相次ぐ宿場町を救うため、阿部サダヲ演じる商人の穀田屋十三郎が瑛太演じる篤平治の知恵を借りるところから始まる。藩に大金を貸し付け、藩から巻き上げた利息を庶民に配るという前代未聞の計画が成功するか否かが本作の見どころだ。“千両=3億円”を集めるために十三郎と仲間たちが節約を重ね、さらに私財を投げ打ってでも宿場町を救おうとする姿が胸を打つ本作。“利息”という現代人にもなじみ深いワードが多くの観客を劇場に呼び込み、ヒットに繋がったのではないだろうか。
『超高速!参勤交代』『超高速!参勤交代 リターンズ』の原作者である土橋章宏の著書『引っ越し大名三千里』は今年『引っ越し大名!』として映画化され、こちらもヒットしている。江戸時代の姫路藩で、書庫にこもって本を読んでばかりの引きこもり侍・片桐春之介が“引っ越し奉行”に任命されるというユニークなストーリーだ。当時の国替え(引っ越し)は参勤交代をはるかに上回る費用(二万両=約15億円)と労力がかかり、失敗すれば切腹という容赦ない状況の中で、引きこもり侍の春之介が翻弄する姿が描かれる本作。本来なら人と馬をレンタルして引っ越ししていたところを自ら荷車を押して移動したり、藩士の荷物を減らすために“断捨離”をさせるといった場面に思わず親近感を抱いてしまう。また本を読んでいるからこそ豊富な知識でピンチを乗り越える春之介に星野源、春之介と幼なじみの鷹村源右衛門に高橋一生といったキャスティングが、普段は時代劇を観ない層も劇場に呼び込んだと言える。
ユーモラスな時代劇が現代を生きるヒントに
江戸時代に生きる武士や庶民が幕府から無理難題を押し付けられる姿についつい自分を重ね合わせ共感してしまう社会人も多いだろう。家計をやりくりする主婦(夫)や、節約しながら懸命に生きる学生やフリーターもそうだ。お金はいつの時代も人が生きるうえでとても重要なのである。いまよりもっと規制が厳しかった江戸時代に、どうにか知恵を絞って難しいミッションをやり遂げるという姿に観客は心を動かされ、彼らに負けじと現代社会で闘う勇気を持つことができるのではないだろうか。消費税が上がり老後に2000万円必要だと言われる時代だからこそ、“お金×時代劇”のエンタメ映画からさまざまなヒントを学んで賢く生きたいものである。
文/奥村百恵
いまから約300年前。赤穂藩藩主・浅野内匠頭(阿部サダヲ)は幕府の重臣・吉良上野介に斬りかかり、即日切腹、藩はお取り潰しに。筆頭家老・大石内蔵助(堤真一)は、嘆く暇もなく、幼なじみの勘定方・矢頭長助(岡村隆史)の力を借り、ひたすら残務整理に励む日々。御家再興の道が閉ざされた彼らに残された希望は、宿敵・吉良邸への討ち入り。ただそこで発覚した大変な事実。なんと討ち入りするにもお金が必要で、使える予算は9500万! 生活費や食費に家賃、江戸までの往復旅費、討ち入りするための武具。お金はどんどん出ていくばかり…。節約する人もいれば無駄遣いする人もいて、プロジェクトは難航。予算が足りずに、やる気満々の浪士たちのリストラも余儀なくされる。予算の都合でチャンスは一回、はたして彼らは“予算内”で一大プロジェクト“仇討ち”を無事に“決算”することができるのか?
原作:山本博文『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書刊)
脚本・監督:中村義洋
出演:堤真一、岡村隆史 濱田岳、横山裕、妻夫木聡、石原さとみ、荒川良々、竹内結子、阿部サダヲ ほか
配給:松竹
2019年11月22日(金)公開
© 2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
公式サイト:http://chushingura-movie.jp/