Feb 02, 2019 column

村上春樹作品を大胆かつ見事に映画化!『バーニング』から読み解く村上文学の魅力

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〈僕〉の前から、忽然と姿を消すヒロインたち

 

過去に映画化された主な村上作品も振り返ってみよう。1979年に発表された村上春樹のデビュー小説『風の歌を聴け』は、村上と同じく兵庫県芦屋市出身の大森一樹監督によって81年に小林薫主演作として映画化された。80年代を代表するアンニュイ系美女・真行寺君枝がヒロインなのは適役だが、ニューウェーブ系バンド「ヒカシュー」のボーカル・巻上公一が〈僕〉の親友である〈鼠〉、〈僕〉の自殺した3番目の彼女に室井滋というユニークな配役となっており、珍味的な味わいのある作品としてファンに愛されている。

 

『風の歌を聴け』(<HDニューマスター版> Blu-ray・DVD 2019年2月13日発売) ©1981 オフィス・シロウズ/ATG

 

映像化の成功例に挙げられるのが、イッセー尾形&宮沢りえ主演作として市川準監督が撮り上げた『トニー滝谷』(04年)と、吉田羊、佐野玲於、村上虹郎らが出演した松永大司監督の『ハナレイ・ベイ』(18年)。どちらも村上作品の重要なテーマである喪失感を主題に据え、静謐ながら見応えのある人間ドラマとなっている。

 

『ハナレイ・ベイ』(Blu-ray・DVD 2019年2月27日発売) ©2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会

 

ベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督が撮った松山ケンイチ&菊地凛子主演作『ノルウェイの森』(10年)は大ヒットにはならなかったものの、オーディションで抜擢された水原希子の初々しさが印象的だった。台湾出身の撮影監督リー・ピンビンが撮り上げた風になびく一面緑色の草原シーンの美しさも忘れがたい。

最後にもうひとつ、『ノルウェイの森』について。ノルウェイの森は、この世界のどこにも存在しない。ビートルズの名盤『ラバー・ソウル』の収録曲「ノルウェーの森」から付けられたタイトルだが、ビートルズが歌ったのは「Norwegian Wood」。日本語に訳すと「ノルウェー産の木材、家具」だが、幻想的な曲のイメージから日本のレコード会社のスタッフが「ノルウェーの森」と意訳した。だから、この森をいくら探しても、現実世界では見つけることはできない。村上春樹流にいえば、“形而上学的な森”なのだ。

そんな目には見えない形而上学的な森の中に、『ノルウェイの森』の直子をはじめ、村上作品に登場するイノセントな魂を持つキャラクターたちの多くが迷い込んでいった。『バーニング 劇場版』の主人公ジョンスは、はたしてヘミを見つけ出すことができるだろうか。

文/長野辰次

 

作品情報

 

『バーニング 劇場版』

小説家を目指しながら、アルバイトで生計を立てるジョンス(ユ・アイン)は、偶然、幼なじみのヘミ(チョン・ジョンソ)と再会する。ヘミからアフリカ旅行の間、飼っている猫の世話を頼まれるジョンス。半年後、帰国したヘミはアフリカで出会ったという謎の男ベン(スティーブン・ユァン)を連れていた。ある日、ベンはヘミと共にジョンスの家を訪れ、自分の秘密を打ち明ける。「僕は時々ビニールハウスを燃やしています」――そしてこの日を境に、ヘミの姿が消えた。ジョンスはベンを訪ねるが、彼のそばには新しい“彼女”の姿が……。

原作:村上春樹「螢・納屋を焼く・その他の短編」(新潮文庫)
監督:イ・チャンドン
出演:ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ
配給:ツイン
公開中
©2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:http://burning-movie.jp/

 

 

原作本紹介

 

「螢・納屋を焼く・その他の短編」村上春樹/新潮文庫

1979年、『風の歌を聴け』で作家デビューした村上春樹の初期短編集。1980年代前半に発表した短編を集めたもので、「ノルウェイの森」の原点と言われる「螢」、『バーニング 劇場版』の原作「納屋を焼く」などが収められている。

 

 

関連作品紹介

 

『風の歌を聴け<HDニューマスター版>』

Blu-ray:2500円(税抜) DVD:1900円(税抜)
2019年2月13日発売
発売・販売元:キングレコード
©1981 オフィス・シロウズ/ATG

 

 

『ハナレイ・ベイ』

Blu-ray:5800円(税抜) DVD:4800円(税抜)
2019年2月27日発売
発売・販売元:バップ
©2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会