Dec 14, 2019 column

『ブレッドウィナー』が描くタリバン政権下の過酷な現実、込められた希望

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被害者、人間としても描かれるタリバン兵

圧政への被害者に向けた同情的なまなざしは、タリバンの少年兵にも向けられる。本作でパヴァーナの父親の逮捕を手引きし、パヴァーナまでをも追い詰めようとする、銃を携えた少年もまた、大人たちの都合で戦争に参加させられる被害者として描かれる。子どもを戦いに巻き込み犠牲にしながら、女性や子どもたちを抑圧する社会を作り上げる。そこに、はたして正当性があるのだろうか。このような本作の描写からは、タリバンは人間の感情をなくした者たちの集まりなのではないかと感じてしまう。

しかし本作には、そのような考えを覆すような、あるタリバン兵士のエピソードも用意されている。彼は、字を読むことのできるパヴァーナに手紙の代読を頼み、自分の妻が亡くなったことを知り、深く悲しむ姿を見せる。そしてパヴァーナに、妻の名前が手紙の中のどこに書いてあるかを尋ね、慈しむようにその字を指でなぞり、見つめるのだった。彼の妻の名の由来は、月の周りに輝く光を意味する言葉であるという。そう説明する兵士の表情は、とても残忍には見えない。そして彼は、パヴァーナにできる限りの便宜をはかろうとしてくれるのだ。このような優しい感情を持った人物は、当然タリバンの側にも存在する。

女であるがゆえにパヴァーナが生きづらいように、少年兵や親切な兵士もまた、男であるがゆえに戦わざるを得ない境遇に陥ってしまったのかもしれない。そう考えると、選択肢が奪われて生きてきた彼らもまた、場合によって被害者だと言うことができる。このような時代と場所に生まれてしまった者たちは、与えられた運命をただ生きるしかないのだろうか。

劇中物語に込められた希望とメッセージ

本作でパヴァーナの心の寄りどころとなるのは、彼女が小さい時から父親に聞かされてきた物語だ。それは、ある少年が山のふもとの村人たちのために、奪われた種をゾウの王から取り戻そうとするという、おとぎ話のような内容である。少年にそんなことができるはずがないと、村人たちは本気にしなかったが、少年はみんなのために知恵と勇気を振り絞って種を手に入れようとする。

その物語には、“たとえどんな環境にあっても、どんな人間であっても、考え努力することで、何か人のためになること、世界を少しでも良くすることができるかもしれない”という希望が込められているように感じられる。それは、宗教の違いや地域の違いを超越し、我々にも当てはめることのできる普遍的な考え方ではないだろうか。

カートゥーン・サルーン設立者の一人である、本作のノラ・トゥーミー監督は、10代のころに生計を立てるため、野菜工場で轟音の中働いたのだという。野菜の品質チェックを1日12時間、3年もの月日、彼女は自分自身に物語を語り続けることで、過酷な時間を乗り切ったと語っている。本作に描かれる“物語”の重要性には、そのころの彼女の実感や想いも加わっているのだろう。そして、アフガニスタンで少女が過酷な環境を生き抜こうとする本作の内容もまた、誰かを救う物語のひとつになっていくはずである。

文/小野寺系

公開情報
『ブレッドウィナー』

11歳のパヴァーナは、アフガニスタンの戦争で荒廃したカブールにある小さなアパートの1つの部屋で、教師だった父、作家の母、姉と幼い弟と暮らしている。タリバンの支配下に生きるパヴァーナは、父が語る物語を聞きながら成長し、市場で人々に手紙を読み書きして生計を立てる父を手伝っていた。ある日、父親がタリバンに逮捕され、パヴァーナの人生は変わってしまう。タリバンは、男性を伴わずに女性が家を出ることを禁じているため、家族はお金を稼ぐことも、食料を買いに行くことさえできない。一家の稼ぎ手として家族を助けるため、パヴァーナは髪を切り“少年”になる。そして危険もかえりみず、パヴァーナは父を救いだす方法を探そうと決意するのだが…。
原作:デボラ・エリス『生きのびるために』(さ・え・ら書房)
監督:ノラ・トゥーミー
脚本:アニータ・ドロン
エグゼクティブ・プロデューサー:アンジェリーナ・ジョリー
声の出演:サーラ・チャウディリー、ソーマ・チハヤー、ラーラ・シディーク、シャイスタ・ ラティーフ、カワ・アダ、アリ・バットショー、ヌリーン・グラムガウス
配給:チャイルド・フィルム/ミラクルヴォイス
2019年12月20日(金)公開
©2017 Breadwinner Canada Inc./Cartoon Saloon (Breadwinner) Limited/ Melusine Productions S.A.
公式サイト:child-film.com/breadwinner