Dec 14, 2019 column

『ブレッドウィナー』が描くタリバン政権下の過酷な現実、込められた希望

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『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(14年)などで知られる、アイルランドのアニメスタジオ“カートゥーン・サルーン”。このアーティスティックな作風で知られる気鋭のスタジオが、アニメ作品ではなかなか取り上げられてこなかったアフガニスタンを舞台に、一人の少女と、その家族にのしかかる過酷な現実を、幻想的な物語とともに描いたアニメーション作品『ブレッドウィナー』(17年)が、日本で劇場公開される(Netflixでのタイトルは『生きのびるために』)。アヌシー国際アニメーション映画祭で高い評価を受けた本作の魅力を紐解いてみる。

生きるために“少年”として生きる少女

フランスの東部、アヌシーで毎年6月に開催されるアヌシー国際アニメーション映画祭。もっとも長い歴史を持つアニメーションの国際映画祭であり、1990年代には『紅の豚』(92年)や『平成狸合戦ぽんぽこ』(94年)が長編部門クリスタル賞(グランプリ)を受賞。日本でも公開時に話題を集めた『キリクと魔女』(98年)やウェス・アンダーソン監督の『ファンタスティック Mr.FOX』(09年)も同賞に輝き、2017年には湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』がグランプリを受賞したことも記憶に新しい。なお、今年はフランスのアニメーション『失くした体』が最高賞を受賞した。

そんなアヌシー国際アニメーション映画祭において、本作『ブレッドウィナー』は、観客賞と審査員賞をダブル受賞。また、アニー賞の長編インディペンデント作品賞や、ロサンゼルス映画批評家協会賞のアニメ映画賞を受賞するなど、すでに世界各地で高い評価を受けている。

本作『ブレッドウィナー』に観客が惹きつけられるのは、アニメーションとしての出来の良さだけではない。ここで描かれる、心がえぐられるような出来事が、実際にアフガニスタンで起きたことを下敷きにし、いまもまさに起こっているかもしれない物語だからだ。つまり、これは現実の問題そのものなのだ。

本作の主人公パヴァーナは、アフガニスタンの首都カブールで、父母と姉、幼い弟と暮らしている11歳の少女。ある日、彼女の父親は、“娘に本を読ませている”という罪で、カブールを実効支配するタリバン武装勢力に逮捕され、収監されてしまう。その時からパヴァーナは、想像もしていなかった過酷な状況に置かれることになる。

タリバン過激派のイスラム教思想は、過度な保守主義と結びついており、市民に厳しい宗教的戒律を守らせ、とりわけ女性に対しては、極力男性と接触しないように、女性だけでの外出を禁じるという、人権侵害といえる取り決めを強制していた。そんな状況では、女性は男性に頼らずに収入を得るどころか、一人で買い物に行くことすらもままならなくなってしまう。

父親が収監され女手しかないパヴァーナの家庭は、この環境の中で、いったいどうやって生きていけばいいというのだろうか…。追い詰められた一家は、パヴァーナの髪を切り男装させ、一家の稼ぎ手(ブレッドウィナー)として、外に送り出すという手段に出ざるを得なくなる。

カナダの作家デボラ・エリスは、アメリカ軍などによって一時的にタリバン政権が崩壊する以前の90年代後半に、パキスタンで難民に取材し、女性や子どもたちから、このようなタリバン勢力下の状況を聞き取り、本作の原作となった『生きのびるために』などの著作を書き上げた。現在、アメリカ軍の撤退により、アフガニスタンは再びタリバン勢力の統治下に戻りつつある。本作は、そこで虐げられる人々の現実の暮らしを伝え、人権侵害を告発する作品でもあるのだ。

少年とはいえ男性であれば、外で行動し、稼ぐことも買い物をすることも自由となる。そのことでパヴァーナの一家は、とりあえず目の前の危機からは脱することができた。しかし、こんなことはいつまでも続けられない。もし女性であることが発覚したら、パヴァーナも一家も無事では済まないはずだ。彼女は、刑務所の中にいる父親に、なんとか会えないかと画策する。はたしてパヴァーナは、この絶望的な状況の中で生き延び、父親に再び会うことができるのだろうか。

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