出会ってしまった者たちの苦悩の果て
「ブルーピリオド」には、多くの人を奮起させるポジティブな名言がある。
「あなたが青く見えるなら りんごも うさぎの体も 青くていいんだよ」
「好きなことに 人生の一番大きな ウエイトを置くのって 普通のことじゃ ないでしょうか?」
「悔しいと 思うなら まだ戦えるね」
その一方で、「俺の 好きだけが 俺を守って くれるんじゃ ないのかなあ…!」と”好き”を続ける難しさも描かれている。これは”絵を描く”ことだけに限った話じゃない。他のことでも何ら変わりはない。
知識ゼロの状態から美大を目指す八虎に感化された友人が「やってみたいと思っちまった」と将来を語るシーンがある。
寝食を忘れるくらい夢中になれることを見つけてしまった。それは、本当に手放しに喜べることなのだろうか?
それに出会ってしまった経験がある人は知っていると思うが、打ち込めば打ち込むほど、足りない自分の本性が明るみに出てきて、好きを肯定した後、否定された気分になる。そして孤独の中で己を見つめ、己は己でしかないことに気づく。やり続けないとわからないことがそこにある。
“情熱は、武器だ。”という言葉を鵜呑みにしてはいけない。その情熱を燃やし続けることがいかに大変か、燃えたぎった初期衝動から、もがき続ける姿を一気に魅せてくれるのが映画『ブルーピリオド』だ。
自分に正直に生きることは難しい。それでもその姿は眩しい。あなたが何歳でも胸が熱くなる、青臭かった自分を思い出させてくれる、そんな映画だと思う。これは、かつてのあなたの、そして今のあなたの物語だ。
文 / 小倉靖史
ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみた。その時、絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を持ちはじめ、どんどんのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するのだが‥‥。立ちはだかる才能あふれるライバル達。正解のない「アート」という大きな壁。苦悩と挫折の果てに、八虎は【自分だけの色】で描くことができるのか。
監督:萩原健太郎
原作:山口つばさ「ブルーピリオド」(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子
配給:ワーナー・ブラザース映画
©山口つばさ/講談社 ©2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
公開中
公式サイト blueperiod-movie