人気マンガを実写化した映画『ブルーピリオド』が、本日8月9日(金)に公開された。原作は、山口つばさによる同名マンガ。主人公の高校生・矢口八虎が、1枚の絵をきっかけに美術の世界に本気で挑み、国内最難関の美術大学・東京藝術大学を目指して奮闘していくストーリーで、現在も月刊アフタヌーンで連載中だ。
コミックスの累計発行部数は700万部を超え、2021年秋にはTVアニメ放送が開始され、現在Netflixにて全世界独占配信、2022年3月には舞台化、と国内外で絶賛されている作品をいかに実写映画化したのか。
「ブルーピリオド」という作品自体の魅力、そして実写化したことで増したその強みについてふれていきたい。
美術をマンガにすること、映画にすること
マンガ「ブルーピリオド」が多くの人々に支持される理由は、美術にハマっていく主人公を通して、その面白さと難しさを丁寧に読者に伝えたことと、美大受験のリアルを描いたことにある。
絵を描くことは、他の勉強と何ら変わらない。原作者の山口つばさは、このマンガをなぜ描いたかについて「絵を描くことがそんなに特殊じゃないってことを、マンガで示してみたかった」と述べている。
天才肌で浮世離れしたアーティスト像は遠い存在に感じ、皆と美術との距離を近づけるために「美術とまったく無縁だった高校生が美術に目覚めて美大を目指し、読者と一緒に成長していく話をつくりたかった」そうだ。
作中では、デッサン、素描、色の使い方、さまざまな技法を紹介。登場人物の描いた作例には、本物の美大生が予備校時代に描いた作品を掲載し、リアリティの追求が徹底している。これは映画でも同様だ。
主人公・矢口八虎役の眞栄田郷敦は、クランクインの約半年前からロケ地にもなった新宿美術学園で絵の練習を始め、八虎が美術部に入るきっかけを作った同級生・ユカちゃん(鮎川龍二)役の高橋文哉、美術部の憧れの先輩である森まる役の桜田ひより、そして美術予備校で出会うライバル・高橋世田介役の板垣李光人は、約3カ月前から特訓に励んだらしい。
劇中の絵を描く手元やシーンに吹替えは一切ない。それゆえ役者の表情からは、本物の熱気や迫力が込められている。
今回の実写映画で描かれるのは、美大受験編である原作コミックスの6巻まで。
マンガ・映画共に、若者たちの成長譚で人間ドラマであることに違いはない。しかし、映画という時間枠におさめるにあたって差異はある。
マンガでは、美術の教科書的要素、同じ目標を持った緑で繋がった若者たちの関係性、その変化が念入りに時間をかけて描かれている。
映画は、マンガが伝えたかった部分をベースににしながらも、八虎の”絵を描いてみたい”という初期衝動を非常に大事に扱っているように感じられる。細かい話でいうと、原作の2話目までを丁寧に描いている。ここにマンガとは違う、実写映画の共感力の強みがあると思う。