アクアマンの魅力を引き出した二人の功績
主役に相応しい活躍を見せるアクアマンの造形も魅力たっぷり。一仕事(海賊をぶちのめす)を終えた後は仲良しの父親と酒場に赴きビールで乾杯。絡んできた荒くれどもと意気投合しては、また馬鹿みたいに酒をかっくらう。しかも、義理の弟オームの策略を止める解決方法として「タイマンでボコボコにすればOK」と言い放つ。どんなピンチに陥っても軽口を叩いて乗り越える……etcと、豪放磊落を絵に描いたような人柄。それでありながら、地上人と海底の女王のハーフという出自は、どこかで人と相いれないという寂しさをも纏っている。
このアクアマンの魅力を最大限に引き出したのは二人の人物の功績による。一人目はもちろん、演じるジェイソン・モモア。193cmの大柄な肉体に豪快に髭を蓄えたルックスで『ゲーム・オブ・スローンズ』など蛮族の王役を数々演じてきた、ワイルドを絵に描いたような人だ。しかし、本人はコミカルな人間で、『アクアマン』撮影中には、出演者にイタズラをしかけて遊んでいたという。まるでガキ大将がそのまま大人になったようなヤンチャぶりだ。常にニッコニコの笑顔を見せる様から、ネットでは「カッコイイ」より「カワイイ」がサジェスト上位にくる。そのあたり、彼の人柄が表れている。ハワイ先住民とドイツ、アイルランド、アメリカ先住民と多種の血を引くモモア。その繊細な生い立ちは、地上人と海底人のハーフであるアクアマンとも重なる。まさにモモアでしか本作のアクアマンはあり得なかった。
そしてもう一人が、本作のストーリーと製作総指揮を手掛けたジョフ・ジョンズだ。彼は2011年に、DCコミックの世界観を再構成した「THE NEW52!」シリーズにて、『アクアマン』のリブートを担当したライターでもある。1941年に生み出された、最初期のヒーローにして“海洋生物と話せる”というどこかファンタジックな特技を持ったアクアマンは、いつしかその古めかしさからバラエティのジョークのタネとして扱われるようになった。そんな古のヒーローを、ジョフは逆手に取り、周囲から嘲笑されながらも気高く誇るキャラクターへと昇華させ「THE NEW52!」随一の人気シリーズとして甦らせた。本作のアーサーはその「THE NEW52!」のアーサーをベースに、モモアという存在をプラスして完成したのだ。
“リアル”ヒーローから“ヒロイック”な『アクアマン』へ、DCEUの変遷
『アクアマン』の“ヒロイックさ”は、今後のDCEUを語る上で重要なテーマになっていくはずだ。DCEUという映画世界を語る前に触れなければならないことがいくつかある。
まず一つは、DCコミック映画の金字塔、リチャード・ドナー監督による『スーパーマン』(78年)だ。古のヒーロー、スーパーマンの“勧善懲悪”な物語を真摯に描き、かつ全世代が楽しめる映画として成立させた。そう、DC映画のスタートは家族そろって楽しめる映画であった。もう一つが、80年代半ばに登場した「ウォッチメン」(アラン・ムーア作)、「バットマン:ダークナイト・リターンズ」(フランク・ミラー作)という、重厚かつ凄惨でシリアスなコミックの存在。この二作はDCコミックに“大人向け”というエッセンスを持ち込み、深い世界観の構築に成功した。
その「ダークナイト~」をベースに生み出されたのが、DCコミック映画の大傑作、ティム・バートン版『バットマン』(89年)。そしてクリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト』三部作だ。『バットマン ビギンズ』(05年)でバットマン誕生をダークなトーンでリアルに描いたノーランは、続く『ダークナイト』(08年)では、ジョーカーによる凶行をもって“正義と悪”の意義を問うという哲学すら孕んだ物語を創出。続く『ダークナイト ライジング』(12年)も、社会格差など現代アメリカが抱える病理を軸にしたサスペンスドラマを展開。その社会派メッセージを内包したリアル志向の悩めるヒーロー映画は、観客、批評家から賛辞を受けた。一方で、ノーランが構築したファンタジー性を排したダークな世界観は、DC映画の在り方を決定づけた。