Feb 23, 2019 column

日本発コンテンツ実写化の道標となる?『アリータ』驚異の映像表現を生んだ裏側、OVA版の影響

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キャメロンとロドリゲス、志向を共にする作家としての資質が『アリータ』を完成へと導く

 

なにより、このデル・トロとの関係に言及すれば、なぜ『アリータ』の監督がロバート・ロドリゲス(『フロム・ダスク・ティル・ドーン』96年、『シン・シティ』05年)になったのかは説明がしやすい。キャメロンもロドリゲスも、デジタルシネマのプラットフォームを整えてきた開拓者であり、公には「技術的な才能と反逆的なスタイルを持って、彼に勝る存在はない」とキャメロンがロドリゲスのキャリアに敬意を払っての起用となっている。が、ロドリゲスの作品の多くを撮影しているシネマトグラファーのギレルモ・ナヴァロが、デル・トロのお抱え撮影監督だという創作上のつながりが強い。

 

 

こうした性質上『アリータ』は、キャメロンとロドリゲスという二人のクリエイターとしての特性、ならびに作品を手がけるうえでの技術的な特徴が顕著に現れた作品となっている。実際、完成した映画を観てみれば、逆境に置かれたヒロインが自らの行動と決断によって運命を変えていくところ、キャメロンのスーパーソルジャー・レディへの志向が濃厚に香ってくる。一方、半機械・半生身というハイブリッドな生体ロボットの存在や、彼らが見せる驚異的かつアクロバティックなアクションの視覚化は、ロドリゲスの独壇場として観る者の視界をつらぬく。

そのためにキャメロンが『アバター』(09年)で確立させたバーチャル・プロダクションが、本作ではフル活用されている。視差を持つ二台のカメラを同期させ、後処理ではなく撮影時に立体像を作る“3Dフュージョンカメラ”や、俳優の細かな表情の変化をCGキャラクターに反映できる“パフォーマンス・キャプチャー”。そして撮影しながらリアルタイムで合成画面の確認を可能にする“サイマルカム”の三点は、今や大がかりなVFX作品には欠かせぬ同プロセスの構成要素だ。しかしキャメロンが視覚効果スタジオWETAデジタルと開発した3Dフュージョンカメラに関しては、もっか後処理による3D変換が主流をなし、撮影に用いられる機会が少ない。

 

 

しかし自らも『スパイキッズ3-D:ゲームオーバー』(03年)、そして『スパイキッズ4D:ワールドタイム・ミッション』(11年)で、キャメロンと同じ3D機器を共有したロドリゲスである。本作でも彼の技術革新の結晶ともいえる3Dフュージョンカメラを現場に導入し、後処理では得難いリアルな空間表現と深い没入感を我が物にしている。加えてモーターボールのシーンは、自身が作成したストーリーボードをもとに、常にローアングルのカメラワークを維持。アリータに伴走して観客の視点も移動するような迫力が加味されている。