Feb 23, 2019 column

日本発コンテンツ実写化の道標となる?『アリータ』驚異の映像表現を生んだ裏側、OVA版の影響

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ジェームズ・キャメロンの製作・脚本で、木城ゆきと原作の「銃夢」を実写映画化した『アリータ:バトル・エンジェル』が公開された。メガホンを執ったのは、「僕の脚本をいかしつつ彼自身の作品にした」とキャメロンが称賛するロバート・ロドリゲス。本作におけるOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)版からの影響と、二人だからこそ生み出せた革新的な映像表現、ハリウッドで続く日本発コンテンツの実写映画化の可能性を解説する。

 

原作コミック以上にOVA版『銃夢』の影響が色濃い『アリータ』

 

木城ゆきとの国産SFコミック「銃夢」をベースとした、20世紀フォックスのハリウッド超大作『アリータ:バトル・エンジェル』(以下『アリータ』)がついに公開となった。“ついに”というのを強調したいくらい、本作は『ターミネーター』(84年)、『タイタニック』(97年)の巨匠ジェームズ・キャメロンが長いこと抱えていたプロジェクトであり、2003年に映画化の意向が示されてからの約16年間、その進展に一喜一憂した人は少なくないだろう。

廃棄処理の街アイアンシティでスクラップとして発見され、ドクター・イド(クリストフ・ヴァルツ)によって再生されたサイボーグ少女・アリータ(ローサ・サラザール)。彼女は失われた記憶を取り戻すために、大戦後のコミュニティで自己存在を模索する。そして伝説の格闘センス“機甲術”の使い手として、その能力を活かして死のバトル球技レース“モーターボール”へと挑んでいく――。この黙示録的デストピアを描いた原作は1990年から95年にかけ「ビジネスジャンプ」(集英社)で発表され、全9巻にわたる単行本は翻訳を主とするローカライズによって、日本のみならず海外でも多くの支持者に読み継がれてきた。

 

 

とはいえ『アリータ』製作の起点はコミックの「銃夢」ではない。事の始まりは『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)のギレルモ・デル・トロが、1993年に発表された同作のOVAをキャメロンに勧めたのがきっかけとなっている。意外な顔合わせのように思えるが、二人は『クロノス』(93年)の資金集めのパーティで出会って意気投合し、お互いの作品づくりを助け合う仲だった。そして両者ともに好きな映画のビデオ鑑賞を頻繁におこない、そのときデル・トロが見せたのである。

そんな影響もあり、『アリータ』は原作コミックだけでなく、単行本1巻から2巻のエピソードを拾ったOVA版『銃夢 GUNNM』(英語タイトルは『BATTLE ANGEL』)の要素も多分に含まれている。たとえば映画に登場するイドの元妻チレン(ジェニファー・コネリー)はOVA版に準拠した存在だし、ジャッキー・アール・ヘイリーが演じているグリュシュカ(OVAでの呼称はグリュシカ)は、原作の複数キャラ(魔角とウンバ)をかけあわせたOVA独自のキャラクターだ。ネタバレに配慮して詳述は避けるが、映画の全体的な構成も、アリータ(原作、OVAでの呼称はガリィ)の出自とヒューゴ(原作での呼称はユーゴ)との切ない恋愛エピソードをベースにしているところはOVAとほぼ同一である。

 

 

ただ映画はOVA版と違い、原作の3巻から4巻までをカバーするモーターボールのエピソードを至妙に組み込んでいる。アクション的な要素を大きく膨らませる形で、クライマックスへと盛り上げていく脚色がなされているのだ(最後にはシリーズ化を予感させるサプライズ演出が施されているが、これは映画独自のもの)。映画と原作との異同確認は、両方を既知していないと読み手を置いてぼりにするのでこのへんにしたい。が、要するに原作コミックと同時にOVAの存在も、今回の『アリータ』を構成するうえで重要な役割を果たしている次第だ。あなどりがたし、ギレルモ・デル・トロの人脈と影響、というべきか。