映画に没入させるワンカット撮影
イギリス映画界でカメラマンとして頭角を現したディーキンスはハリウッドでその才を認められ、『ショーシャンクの空に』(94年)をはじめ多くの傑作に携わり、アカデミー賞のノミネート回数はじつに15度を数える。中でも有名なのはコーエン兄弟の作品での活躍で、『ファーゴ』(96年)、『オー・ブラザー!』(00年)、『ノーカントリー』(07年)などで才腕を振るった。サム・メンデスと組み始めたのは『ジャーヘッド』からで、『1917』が4度目のコラボレーション作品となる。そして今回の大きなチャレンジとなったのが、ワンカット撮影だ。
メンデスは前作『007/スペクター』で、『ダンケルク』の撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマと組み、オープニングのメキシコでのシークエンスでワンカット撮影を試み、スリリングな見せ場として機能させた。この経験を発展させたのが、『1917』と言えるだろう。119分のすべてがワンカットでつながってはいるが、最初から最後までをワンカットで撮ったわけではない。物語は昼から夜、朝へと続くので完全ワンカットで撮ったなら20時間ほどの超大作となってしまうのだから。本作はしばし完全ワンカット撮影と語られているが、実際には『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と同様に複数のワンカットをつなぎ合わせたものだ。
とはいえ、ワンカット撮影にはつねに困難がつきまとう。役者やスタッフの誰か一人がミスしただけで、その場面は撮り直しになる。それを回避するためには入念な準備とリハーサルが必要だ。本作でメンデスとディーキンスはセットの建設前からそのサイズをすべて計測し、俳優の移動距離や速度を考慮してカメラワークを決めた。時に地を這い、時には天を舞う、その動きは奔放に見えるかもしれないが、すべての撮影は綿密な計算に基づいて行なわれたのだ。
ほかにも屋外の撮影であり、なおかつあらゆる角度から撮影するゆえに照明が使えず自然光のみで行なったとか、映画を曇天で統一すべく天候の変更を待って撮影したとか、撮影時の難題には事欠かない。それらの苦労はすべて、観客を映画に夢中にさせるためのものだ。「観客には、ワンカットで撮影されたことを意識して観て欲しいわけではない。それに気づかぬほど没入して体感してもらいたい」とディーキンスは語る。最初はワンカットを意識して観たとしても、観客は途中からそれを忘れてしまうに違いない。『1917』には、それほどまでに強烈なエネルギーが宿っているのだから。
文/相馬学
第一次世界大戦真っただ中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)にひとつの重要な任務が命じられる。それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄も配属されていたのだ。戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる――。刻々とタイムリミットが迫る中、二人の危険かつ困難なミッションが始まる…。
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作:サム・メンデス、ピッパ・ハリス
撮影監督:ロジャー・ディーキンス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロング ほか
配給:東宝東和
公開中
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公式サイト:1917-movie.jp
Blu-ray:2381円(税抜) DVD:1429円(税抜)
発売中
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※2020年2月の情報です。