Feb 15, 2020 column

圧倒的な没入感!『1917 命をかけた伝令』を名匠二人の代表作とともに紐解く

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ドラマと映像にこだわる名匠サム・メンデス

監督のサム・メンデスはテビュー作『アメリカン・ビューティー』でアカデミー賞を受賞して以来、ハリウッドでも尊敬される名匠として知られており、本作でも同賞にノミネートを受けた。映画界に入る以前は本国イギリスの演劇界で演出家としてキャリアを重ね、多くの賞を受賞。その舞台を見たスティーヴン・スピルバーグに演出の腕を認められ、『アメリカン・ビューティー』の監督に抜擢されるに至った。

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メンデスが手がけた映画はじつに多彩で、『アメリカン・ビューティー』でシニカルなコメディを生み、『ロード・トゥ・パーディション』(02年)ではオールドスタイルのギャングストーリーを演出、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08年)では夫婦の愛憎のドラマを紡ぎ、『007/スカイフォール』、『007/スペクター』(15年)ではアクション大作での手腕を証明して見せた。また、本作の以前にも『ジャーヘッド』(05年)で戦争映画に挑戦しているが、こちらは『1917』の対極ともいえる内容で、イラク戦争に出征した若き兵士がひたすら待機する日々の中で、戦いを経験することなく人間性を破壊されていくという、反戦色の強い物語だ。

メンデス作品では、しばし家族の絆や葛藤がテーマになる。『アメリカン・ビューティー』や『レボリューショナリー・ロード』は家族の崩壊が生々しさとともに描かれていた。また、『ロード・トゥ・パーディション』は切っても切れない父子の絆がドラマをおもしろくしていた。『1917』にも、そんな家族劇の要素が見受けられる。ブレイクの兄は進軍中の部隊に在籍しており、彼が伝令を届けなければドイツ軍の猛攻を免れず、部隊もろとも全滅に追い込まれかねない。だからこそブレイクは必死であり、戦友スコフィールドも彼を支える。エモーショナルな描写は本作では控えめだが、だからこそ心に残る設定だ。

また、メンデスの作品は映像の空気に徹底的にこだわることでも知られている。『アメリカン・ビューティー』の原色の配置やライティングのハッとするほどの美しさ、『ロード・トゥ・パーディション』の陰影を活かしたノワールなムード。いずれの作品も名手コンラッド・L・ホールが撮影監督を務め、どちらもアカデミー撮影賞を受賞している。そしてホール亡き後、メンデス作品の撮影監督を務めるようになったのがロジャー・ディーキンス。『ブレードランナー 2049』(17年)に続き、『1917』で2度目のアカデミー撮影賞を受賞したのは記憶に新しい。