1917年、第一次世界大戦時のヨーロッパ戦線で、味方の兵1600人の命を救うため、伝令を運ぶ命を受けた二人のイギリス人兵士。最前線を駆け抜ける彼らは、決死のサバイバルを強いられる…。『アメリカン・ビューティー』(99年)のアカデミー賞監督サム・メンデスが、全編をワンカットでつなぐという野心的な手法で生み出した『1917 命をかけた伝令』。ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)の作品賞に輝き、全米映画賞を賑わせたのも記憶に新しい、この注目作の見どころに迫る。
観客も塹壕に押し込められた兵士の一人に!
第一次世界大戦が激化していた1917年、劣勢のドイツ軍は撤退を装い、連合軍を誘引して圧倒的な兵器力で逆襲に転じる作戦を実行しようとしていた。それを知った連合軍側は、すでに進軍している大部隊1600名を救うべく、二人の若きイギリス人兵士スコフィールドとブレイクに、翌朝に実行される軍事作戦の中止の伝令を託す。『1917 命をかけた伝令』で描かれるのは、そんな彼らの奔走の物語だ。
歴史を背景にした戦争映画ではあるが、中身はサム・メンデス監督が、伝令兵だった祖父から聞いた話に基づくフィクションで、歴史や戦争の知識がなくても楽しめる。塹壕から平原へ、死体の転がる戦地からさらに前線へ、昼から夜へ。スコフィールドとブレイクは銃弾や砲弾にさらされ、危険をかいくぐりながら任務のためにひた走る。主人公たちがどれほど過酷な体験をし、どのようにサバイバルを繰り広げるのか? 本作のおもしろさは、極限下に置かれた彼らの奔走に焦点を絞った、並々ならぬスリルにある。
もっとも話題を呼んでいるのは、全編をワンカットでつなげるという野心的な映像表現だ。カットの切り替えがなく、一台のカメラでずっと追い続けている、そんなドキュメンタリーのようなビジュアル。これは2014年のアカデミー賞受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でも用いられた手法だ。本作では、メンデスとは『007/スカイフォール』(12年)以来のタッグとなるベテラン撮影監督ロジャー・ディーキンスが、この撮影に取り組んだ。兵士たちの背中を追いかけ、なおかつ状況を的確に切り取った映像は、観客を戦場の真っただ中に放り込む。そんな並々ならぬ臨場感が、本作の最大の注目ポイントでもある。このワンカット撮影については、詳しく後述する。
キャストで目を引くのは、観客に奔走を体感させる主人公たちを演じた、『はじまりへの旅』(16年)のジョージ・マッケイと、『ゲーム・オブ・スローンズ』のディーン=チャールズ・チャップマンというイギリスの若手俳優二人。とにかく走り回るのだから肉体的な演技は必然的だが、危機感や切迫感、使命感を伝える表情もよく、まさに熱演。また、出番はわずかだが『英国王のスビーチ』(10年)のコリン・ファースや『ドクター・ストレンジ』(16年)のベネディクト・カンバーバッチ、『キック・アス』(10年)のマーク・ストロングといった英国の実力派アクターたちが上官役で出演。彼らの存在感がドラマを引き締めている点にも注目したい。