Mar 03, 2018 column

87歳にして飽くなき創作意欲!クリント・イーストウッドの映画人生を振り返る

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イーストウッド作品が愛される理由、歳を重ねるごとに多作な理由

その監督としての実力は、年を経るごとに磨きがかかっている。映画雑誌「キネマ旬報」の年間外国映画ベスト・テンでは、2016年からさかのぼって、『ハドソン川の奇跡』1位、『アメリカン・スナイパー』2位、『ジャージー・ボーイズ』1位、『J・エドガー』9位、『ヒア アフター』(10年)8位、『インビクタス/負けざる者たち』2位、『グラン・トリノ』(08年)1位、『チェンジリング』3位、『父親たちの星条旗』(06年)1位、『硫黄島からの手紙』(06年)2位、『ミリオンダラー・ベイビー』1位、『ミスティック・リバー』1位……と圧倒的な結果を残しているのだ。

前述したとおり、特に近年は実話の映画化作品が目立ち、それゆえに骨太な感動作が多く生まれることになる。一方で、歳を重ねるごとに演出や編集のテクニックは鋭さを増し、『アメリカン・スナイパー』の銃撃シーンの緊迫感とテンションの高さやリアリズム、『ハドソン川の奇跡』の臨場感満点の飛行機内・外の映像など、映画の“見せ方”を熟知した作りに、観客は有無を言わさず引き込まれてしまう。

『ハドソン川の奇跡』(ブルーレイ・DVD 発売中)© 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.

そして『硫黄島からの手紙』と『父親たちの星条旗』で、太平洋戦争を日米それぞれの視点で描く2部作を撮るなど、大胆なチャレンジ精神は、最新作の『15時17分~』へと受け継がれた。的確な仕上げと、飽くなき野心、“神の目”のように偏りのない視点、そして強烈なメッセージも抑えめに描くことでの静かにしみわたる感動などが、批評家や映画ファンに愛される要因のようだ。さらに大きな共通点は、ヒーローらしからぬ人物がヒーローになる展開。その結果、観客は劇的な物語を自ら体験するような喜びを味わうことになる。

80代に入ってもほぼ毎年のように新作を完成させられるのは、徹底的にムダを排除した演出であることが理由のひとつだろう。リハーサルもほとんど行わず、本番のテイクも1回か、多くて2~3回というイーストウッドの撮影現場は、俳優たちの集中力も上げる好循環を生み出している。撮影監督のトム・スターンや、衣装デザイナーのデボラ・ホッパーは、それぞれ14本、18本のイーストウッド作品に参加しており、こうした常連スタッフに全幅の信頼を置いている点も、多作の理由のひとつと言える。

ただし、音楽に関してはイーストウッドが自らのセンスを重視することが多く、『ミリオンダラー・ベイビー』や『チェンジリング』など作曲全体を担当するケースもあれば、『グラン・トリノ』のように主題歌の作詞のみを手がけることもある。こうして作品に合わせてアプローチを変えるのは、音楽への並々ならぬこだわりだろう。『硫黄島からの手紙』や『グラン・トリノ』などでは、作曲家でベーシストの息子、カイル・イーストウッドに作曲を任せた。

『グラン・トリノ』(ブルーレイ・DVD発売中) ©2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

主人公の頑固な老人を名演した『グラン・トリノ』以後、自身の監督作に出演することはなく(『ジャージー・ボーイズ』ではカメオ出演)、監督業に徹しているクリント・イーストウッド。作品におけるスタンスや演出は、よりシンプルかつシャープになり、余計なものが削ぎ落とされた、ある種の“聖域”へ達しようとしている。

文/斉藤博昭

作品情報

『15時17分、パリ行き』

2015年、アムステルダム発パリ行きの高速列車タリスがフランス国境内へ入った後、突如イスラム過激派の男が自動小銃を発砲した。554人の乗客全員が恐怖に怯え、極限の恐怖と緊張感の中、とっさに行動に移して阻止したのは、ヨーロッパを旅行中だったアメリカ人の若者たちだった。なぜ名もなき3人の若者は、死に直面しながら命を捨てる覚悟で立ち向かえたのか。事件に勇敢に立ち向かった3人を始め、乗客として列車に居合わせた数多くの人が出演し、実際に事件が起こった場所で撮影を敢行するなど、“タリス銃乱射事件”を究極のリアリティで描く。

『15時17分、パリ行き』 原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ドロシー・ブリスカル 撮影:トム・スターン 衣装:デボラ・ホッパー 編集:ブルー・マーレイ 美術:ケビン・イシオカ 出演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC 公開中 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/1517toparis/

関連作品紹介

『許されざる者』

ブルーレイ:2381円(税抜) DVD:1429円(税抜) 4K ULTRA HD&ブルーレイセット(2枚組):5990円(税抜) 発売中 発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント ©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ハドソン川の奇跡』

ブルーレイ:2381円(税抜) DVD:1429円(税抜) 4K ULTRA HD&2Dブルーレイセット(2枚組/デジタルコピー付):5990円(税抜)※初回仕様 発売中 発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント © 2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.

『グラン・トリノ』

ブルーレイ:2381円(税抜) DVD:1429円(税抜) 発売中 発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント