Feb 08, 2017 interview

小日向文世と矢口監督が過酷なサバイバルロケの裏側を語る

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『ウォーターボーイズ』(01)、『スウィングガールズ』(04)、『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』(14)と俳優たちがリアルに体を張ったコメディ作品で人気の矢口史靖監督。大河ドラマ『真田丸』で演じた豊臣秀吉役が大きな話題を呼んだ小日向文世を主演に迎えた最新作『サバイバルファミリー』はこれまで以上にドキュメンタリー要素が強く、スマホをはじめとする電化製品に依存しがちな現代社会への風刺が効いた大人向けのエンターテイメント快作となっている。
2カ月半にも及んだ過酷なサバイバルツアー(地方ロケ)の裏側、矢口作品に共通するテーマ性など、苦労を共にした(?)お2人にたっぷり語ってもらった。

 

──最新作『サバイバルファミリー』は日本映画では珍しいパニック大作でありながら、矢口監督らしく笑いあり、感動ありの娯楽作品に仕上がっています。謎の原因で電気が使えなくなった世界というアイデアは、2003年に起きた北米の大停電がヒントになったそうですね。

矢口 そうです。でも、北米の大停電はアイデアの半分であって、それ以前から電気が使えなくなる話はずっと考えていました。周囲がどんどんパソコンやモバイル機器を便利そうに使いこなすのを見て、悔しかったんです(笑)。僕はそういったデジタルツールが苦手なもので。

──なるほど。確かに、矢口監督の作品は『ウォーターボーイズ』をはじめ、アナログな世界を描いたものがほとんどです。

矢口 そうかもしれません。世の中がデジタル化していくのに取り残されたアナログ人間なんです。周りの人間がコンピューターを使いこなしていることに対する妬みから、「いっそ電化製品が全部使えなくなれば、世の中よっぽどすっきりするのに」なんて考えていました。そんなときにNY一帯が大停電に陥ったニュースを見て、電気が使えなくなった街の様子がとても魅力的に見えたんです。プロットを書いて、アルタミラピクチャーズの桝井社長に映画化できないか相談したんですが、社長は「うん、ね!」と言ったきりでした(笑)。企画会議では毎回のように持ち上がるんですが、やっぱりハードルが高くて。『スウィングガールズ』(04)『ハッピーフライト』(08)、『ロボジー』(12)……を作ることになって。『サバイバルファミリー』は10年ごしの映画化でした。

 

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──2011年の福島第一原発事故に伴う大規模な計画停電が実施されたことで、電気が使えない状況はとても身近なテーマになりました。

矢口 他人事ではなくなりましたよね。でも、僕がやりたかったのはパニック映画として電気が消えた世界を描くことではなかったんです。それまでも一緒に暮らしていた家族が、それぞれスマホをいじったりテレビを見たり、家族として交流することがなかったけれど、電気が使えなくなったことで家族らしくなっていく様子、困った状況の中で逆に強く、明るくなっていく物語をやりたいなと考えていたんです。

──矢口監督流“明るいサバイバルムービー”の誕生ですね。小日向さんは『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』と出演し、今回は主演を務めることに。

小日向 うれしいですよ。役者って監督やプロデューサーに声を掛けてもらって、初めて仕事できるわけですからね。2年前の忘年会で矢口監督に声を掛けてもらい、無事に作品が完成して、役者としてこんなに幸せなことはないです。撮影中はしんどい目にも遭ったけど、過ぎてしまえば全部いい思い出です。それに家族の物語だったので、僕が主演という気負いはあまりなかった。僕は途方に暮れて黙り込んでいるシーンが多かったので、意外と台詞が少なくて楽でしたね(笑)。

 

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──小日向さんならどんな状況でも乗り切ってくれるに違いないという信頼感から、矢口監督は起用したわけですか?

矢口 いや、その逆ですね。小日向さんがサバイバル生活に挑戦したら、とてもじゃないけど“生き残れなそうに見える”ことがキャスティングの決め手でした(笑)。この作品はヒーローみたいにかっこいい主人公じゃダメ。「このお父さんなら任せて安心だ」と思える男優では務まらないんです。

──『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィルスが主演を申し込んできてもダメなわけですね?

矢口 ダメです。シルベスタ・スタローンやシュワルツェネッガーがいくら主演したがってもダメです。地図すら持たずに東京から鹿児島まで自転車で走破しようという無計画な家族だからこそ、観客はハラハラするわけです。そんなダメ家族の中でも、いちばんダメな人が小日向さん演じるお父さんなんです。

小日向 サバイバルに関する知識がまったくないのに、「俺について来くればなんとかなる!」とか言い出しちゃうお父さん。もう、どーしようもないんです(笑)。

矢口 多分、昔見たホームドラマか何かの台詞を思わず口にしちゃったんでしょうね。世のお父さんって、ときどきそういう根拠のないことを言い出しちゃう。深津絵里さん演じるお母さんは、きっとお父さんのそんな根拠のない自信にうっかり騙されて結婚してしまったんでしょうね(笑)。

小日向 とにかく、矢口監督が書いた脚本が面白かったんです。矢口監督が書いた脚本に、監督の奥さんがいろいろ感想を言って直していったんでしょ? 僕が読んだ第1稿の時点で、すでに充分に練られていた。無駄なシーンもないし、初号試写以来久しぶりに見直したけど、やっぱり面白かった。次々とサバイバルシーンが続くから、飽きる瞬間がない。

矢口 どんどん褒めてください。褒められて、育つ監督なので(笑)。