世界に降り注いだ泡<バブル>によって、重力が壊れた東京。廃墟となった街は、若者たちの遊び場となり、パルクールのチームバトルの戦場となっていた。そんな世界で少年ヒビキと少女ウタは出会い恋をする。二人の運命は世界を変える驚愕の真実へとつながる。
ベルリン国際映画祭正式出品作『バブル』の監督を務めるのは『進撃の巨人』の荒木哲郎。脚本は『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄、キャラクターデザイン原案は『DEATH NOTE』『バクマン。』の小畑健が担当し、『プロメア』の澤野弘之が音楽面から作品を盛り上げる。そしてアニメファンから絶大な信頼をおかれるWIT STUDIOが制作を担う。プロデューサーの川村元気は、「荒木監督に関わってきた全てのスタークリエイターたちが集結した“フェス”みたいにしたかった」とこの作品の魅力を語る。本作はNetflixにて全世界で先行して配信され、その後に劇場公開という新しい発信方法となっている。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』で、荒木哲郎監督に、本作の制作秘話や想いをうかがいました。
制作過程で得た新たなメソッド
池ノ辺 映画、素晴らしかったです。豪華なクリエイターの方々が集まった今回の作品ですが、構想にどれくらいかかったんですか?
荒木 結果的に5年かかりました。2017年の『進撃の巨人』のシーズン2をやっている頃に、「より広い層のお客さんに自分たちの作品を届けたい、一緒に映画を作ってくれませんか?」とプロデューサーの川村元気さんに持ちかけたのが始まりです。そこから企画のラリーを半年ぐらい続け、最終的にこれでいこう!となったのが、“近未来廃墟に佇む人魚姫”というモチーフから生まれた企画です。
川村さんに持っていく前から、脚本の虚淵玄さんとは一緒にやりたいと決めていました。それで虚淵さんにその企画を持っていくと、シャボン玉の地球外生命体の謎の少女がパルクールをやっている少年と恋をするという構造、つまりSFにするというアイデアをいただいたのです。そこから、自分とプロデューサー、ライターチームでシナリオに広げていく作業が一番難しくて、そこで一番時間がかかりました。2019年までその作業で、さらにスタジオの多くの人が関わるようになったのはここ1、2年のことです。
池ノ辺 プロデューサーの川村さんは、監督が話を持ちかけたときに、すぐにやろう!って言われたんですか?
荒木 そうですね。どういう思いで引き受けてくれたのかはわからないのですが。ただ、自分から見れば、雲の上の人なので、“一緒に仕事をしてくれるなんて嬉しい!”という気持ちでした。
池ノ辺 では幸せな作業時間だったんですね。
荒木 実際、川村さんと企画のラリーをやってる半年間は、本当に勉強になりました。その後の仕事でも、あの時の川村さんとのやりとりから得たコツというかメソッドがとても役に立ちましたから。
池ノ辺 川村さんが映画制作のなかで得た経験によるアドバイスということですね。具体的にはどういう?
荒木 そのときにやってみたのは、作品をポスターから考えてみたらどうなるか?という手法です。つまり「これから作る映画の宣伝ポスターには何が描いてありますか?」というところから考え始めるわけです。そして、オリジナルアニメを作る上では、その組み合わせが未だかつてないものであることが大事なんです。
例えば、ロボットがいて、周りの景色に地球の山や森があれば『マジンガーZ』、それが宇宙でスペースコロニーだったら『機動戦士ガンダム』になる。森の中の女の子のとなりに大きな化け物がいたら『となりのトトロ』だし、それが温泉街でお面のお化けなら『千と千尋の神隠し』になるわけです。確かにその組み合わせが重要で、それがその作品のキャパシティを決めるのだと思いました。
そして、『バブル』では、青空とシャボン玉、女の子と、水没した廃墟の街という組み合わせだったのです。川村さんとのやりとりには、こういう類のどんな作品にも通用するようなちょっとしたコツが満載でしたから、実に有益な時間でした。
池ノ辺 特にポスターなどの宣伝については、川村さんはプロデューサーの立場からのご意見がいろいろありそうですよね。
荒木 そうですね。ただ、プロモーションにしても画作りにしても、どういうものを作るかというシナリオ成立までの最初の段階、一番長い時間をかけて話し合ったものが土台にあって、常にそこを確認しながら進めていくという感じでした。それだけ最初が最も重要だということですね。