コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第17回
『古都』の初日舞台挨拶が12月3日、新宿ピカデリーで行われた。
舞台挨拶には、Yuki Saito監督、出演の松雪泰子、橋本愛、成海璃子、伊原剛志、葉山奨之のほか、エンディング曲を担当した新山詩織が登壇した。
「水の中にいるような浮遊感がありました」
川端康成の同名小説を現代版として映画化した本作で、松雪泰子演じる【佐田千重子】の娘【佐田舞】を演じた橋本愛は、こう語る。
【佐田舞】は、自分の意志がなくて、芯も弱く、確固たるものが見つけられないでいる時期の女の子という役柄。演じるにあたり橋本も、撮影現場では自分の芯が掴めないままフワフワしていたらしい。そして、上の言葉へと繋がっていく。
役者としての橋本は、監督からの指示に柔軟に対応できるよう、自分ではあまり役を作り込み過ぎずに現場に向かうという、いわば、ナチュラル派の女優としても知られている。
以前から大ファンだったという、中村義洋監督が手掛けたホラー作品『残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』に出演した時にも、「監督の指示が分かりやすくて、端的で的確でやりやすかったです」と、コメントするなど、こと芝居に関しては、受け身のM気質があるようだ。
また、『貞子3D』で【貞子】を演じてからは、ホラー女優のイメージがこびりついてしまった感のある橋本。
日本人形を思わせる漆黒の髪に、マネキンのように整った顔立ち、そして、あまり人前では笑顔を見せないクールビューティー。 当時の橋本から感じ取れたのは、冷たい氷のイメージと深い闇であった。
しかし、その後、主演を務めた『リトル・フォレスト』という作品では、一転して表情も明るくなり、温かな雰囲気を醸し出していた。 同作の初日舞台挨拶では、「この映画のおかげで偏食がなくなりました。野菜の背景を考えるようになり、食べなきゃと思えるようになりましたし、この歳になって残さず食べられるようになりました」と語るなど、1年を通して“食”と向き合ったことで、闇という毒素が体の中から消えたのか、スッキリとした表情を見せていたものだ。
そんな自然体でナチュラルなことが影響してかは分からないが、その時その時の役のイメージがなかなか抜け切らず、舞台挨拶などで橋本の姿を見るたびに、姿形や性格までもが変わっていると感じることが多々ある。
影響されやすい性格であり、影響されやすい体質なのだろうか。
今回は、『古都』の初日舞台挨拶での話となったが、先に行われた完成披露試写会の舞台挨拶で、橋本はこんなことも言っていた。
「お茶や日本舞踊、京言葉など、全てが初めてだったので時間をかけて鍛錬しました。自分にどれだけできるかが課題で、終わってからは不安と反省しかなかったです」
現場では、M気質のストイックさを遺憾なく発揮し、母親役の松雪泰子も「強さや想いというものが、静かな中でも伝わってきました」と、納得するような素晴らしい演技を見せていたようだ。
さらに、松雪に対し橋本は「お母さん(松雪)の所作がすごく綺麗で素敵でしたし、その隙間に垣間見られる、女性の強さだったりしなやかさ、格好良さにずっと惚れてました(笑)」と、羨望の眼差しを向けていたのだった。
影響されやすい性格。
確か松雪は、若かりし頃の自分を「好奇心旺盛で無謀なタイプ」と称していたが、橋本もそんな松雪に影響されて、“好奇心旺盛で無謀なタイプ”の女性、いや女優になっていくのだろうか。
そういえば松雪も、どことなく影を帯びていて、クールビューティーという言葉がピッタリだから、案外2人は似た者同士なのかもしれない。
映画『古都』(DLE配給)
原作では描かれなかった主人公の双子姉妹のその後にスポットを当て、成長した双子姉妹とそれぞれの娘たちの人生を、京都とパリという2つの古都を舞台に描いた、川端康成による同名小説を現代版として映画化した人間ドラマ。
監督:Yuki Saito 脚本:眞武泰徳、梶本惠美、Yuki Saito 出演:松雪泰子、橋本愛、成海璃子、蒼れいな、蒼あんな、葉山奨之、栗塚旭、迫田孝也、伊原剛志、奥田瑛二 ほか