『GANTZ』の奥浩哉原作の『いぬやしき』が実写映画化された。超人的なパワーを手に入れた定年間近の冴えないサラリーマン・犬屋敷壱郎と、無差別殺戮を繰り返す高校生・獅子神皓の壮絶な戦いを描いたこの作品で、佐藤健は初の悪役に挑戦している。アクションやファンタジーから少女マンガ原作、泣けるヒューマンドラマまで、どんな作品でも常にそこにリアリティをもたせる彼の俳優としての魅力に迫る。
『いぬやしき』で二面性のある悪役を肉体と表情を活かして体現
今年29歳にして、『いぬやしき』で高校生に扮している佐藤健だが、同世代の俳優の中で高校生役がこれほどまでに違和感がない人はいないのではないだろうか。それはきっと、端正な顔立ちが作品によってあどけなく変化すること、大きな瞳に無垢を感じさせること、そして華奢に見える身体つきにも関係があるのだろうけれど、やはり彼自身の高い演技力で観る者を納得させるからに他ならない。『いぬやしき』でもまた制服姿+教室という風景に難なく馴染んでいるのがさすがだ。
ただし、『いぬやしき』では衝突事故に巻き込まれて機械の身体に生まれ変わったという役柄。引きこもりになった友達や自分に好意を寄せてくれるクラスメートへはごく普通の優しさを見せるものの、自分と関係ない家族を容赦なく惨殺していく冷酷さは非常に不気味。感情を読み取らせない彼のポーカーフェイスは、顔面の美しさもあいまって、悪役としての凄味が増す一因になっている。
獅子神皓はセリフが少ない分、表情や身体での表現が大事になってくる。犬屋敷(木梨憲武)を狙う射抜くような鋭い視線と、唯一の友達・安堂直行(本郷奏多)と話すときの柔和な眼差し。攻撃を受けたときの憤怒と追い詰められたと知ったときの絶望。銃を模した指先の動きと兵器が出現する背中の筋肉…。俳優とは身体すべてを使って表現する仕事だと言うけれど、本作での彼は、まさに鍛え上げられた肉体と情感豊かな表情(特に瞳の)を活かして二面性のある獅子神を体現していた。初のダーティーな役柄、実年齢とかけ離れている高校生役、そして新宿上空を高速で飛び回るようなCGを多用した非現実的な世界観。そのすべてに的確な説得力を与えて成立させていたのは、まさに彼だったからだろう。
初期から注目を集め、コミック原作のキャラクターに息吹を与える高い演技力
思えば、彼が一躍大きな注目を浴びたのは、今でも高い人気を誇る『仮面ライダー電王』(07~08年)だった。変身前の“本体”と、変身後のスーツアクターの動きに合わせて声をあてるのはシリーズの通例だけれど、『電王』では、彼が演じる“本体”野上良太郎にさまざまなイマジン(怪人)が憑依し、七変化を遂げるのが大きな見どころのひとつになっていた。“史上最弱のライダー”と言われる気弱な本体の良太郎から、「俺、参上!」が決めゼリフのオラオラ系、メガネ男子のチャラ男系、豪快な性格の九州男子系などなど、実に7人の良太郎を表情から声色まで見事に演じ分けていた彼は、キャリア初期の頃からすでに演技力の高さで注目されていたのだ。
ドラマから映画化もされた『ROOKIES』シリーズ(08年・09年)では、原作ではいかつい岡田優也をドレッドヘアの強烈さと押しの強いアツい演技で見せ、『BECK』(10年)では繊細さと芯の強さを内包したコユキを好演。『バクマン。』(15年)では漫画家を目指す高校生・最高を、ティーンならではの(と言ってもこの時、すでに20代半ばだったわけだが)初々しい躍動感と共に演じてみせた。こうした佐藤健の漫画原作フィルモグラフィーの中でも特に印象深いのは、大ヒットシリーズ『るろうに剣心』(12~14年)と、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13年)ではないだろうか。