今作『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』は1993年に岩井俊二監督の手によって映像化された作品を、『魔法少女まどか☆マギカ』を手がけた新房昭之監督、脚本家として参加した『モテキ』や『バクマン。』でおなじみの大根仁、『君の名は。』をヒットに導いた映画プロデューサーの川村元気がタッグを組み、アニメーション映画として新たに蘇った。新たな解釈で描かれる名作映画でヒロインのなずなを演じた広瀬すずさんに、声で演じるということについて、そして劇中で披露している本邦初公開となる歌声についてなどを伺いました。
──広瀬さん演じたなずなという女の子は複雑な家庭環境で育ったということもあり、とても大人っぽい雰囲気をまとっています。
すごく色っぽいですよね。だけど、実年齢よりも背伸びをしなくちゃいけない瞬間が生活の中で何度もあってそうならざるを得なかったんだろうな、と思ったんです。だから普段は典道くんたちよりも精神年齢が3〜4歳くらい上の感覚なのですが、不意に少女らしい瞬間も見せるんですよね。そこがかわいらしいなって。
──演じる上で工夫したこと、意識していたことがあれば教えてください。
普段は大人っぽく聞こえるようしっかり喋ることを意識していたけど、ふとした瞬間に出る声は、裏声とまではいかないけど、パーンと張りのある発声を心がけたりはしていました。そうするとより少女らしさが出るよ、と典道くんを駆け落ちに誘うシーンでの“かけおち”というセリフを録っているときに監督からアドバイスをいただいて。なずなも大人っぽく見えるけど13歳の女の子なんだということを観ている方にも感じてもらえるよう、声の揺れや発した方で表現したいな、と私なりにあれこれ考えながらアフレコに臨みました。
──なずなの持つ色っぽさに関してはどんな工夫をしました?
ちょっと落ち着いたトーンで息を含ませてゆっくり喋ること、ですかね。ある程度自由に演じさせていただけたので、のびのびと私らしいなずなになれていたらいいなと思います。
──典道役を演じた菅田将暉さんは今回が声優初挑戦ですが、ご一緒されてみての感想を聞かせていただければ。
天才肌。まさにその一言に尽きます。出演作を観ていてもすごい方だなって思っていたのですが、受け止めてそれを放出する力がとても強いんですよ。それってたぶんすごく難しいことなんですけど、とても堂々とマイクの前に立っていらっしゃって。私も置いていかれないようにがんばらないとって励みになりましたし、刺激をいただきました。アフレコ現場でセリフ以外で覚えている会話といえば、差し入れのお菓子に関してのみ(笑)。おいしいものがたくさんあったので、収録の合間に二人で黙々と食べた思い出があります。
宮野真守さんと菅田将暉さんの存在感に助けていただきました
──印象的なシーンの連続でしたが、特に思い出深いシーンはありますか?
アフレコのときはまだ絵が入っていなくて、なんとなくペンで書いてあるト書きや指示に合わせて収録していったのですが、なずなが家出に失敗してお母さんに連れ戻されるシーンはタイミングが難しかったです。動作が入ってくると声の出し方って変わってくるんですけど、それを声のみで表現するっていうのがなかなか出来なくて、実際に体を動かしながらお芝居をしたりすることもありました。
──そこが普段のお芝居とは異なる部分ですか?
そうですね、いつもは自分の体を自分で動かして、そこに声は自然とついてくる。誰かとお芝居するシーンだったら、目の前に相手がいますし。声のお仕事ではそれがないので、難しいな、と感じた部分でした。そういう意味では祐介役の宮野真守さんとアフレコがご一緒だったときは、宮野さんの存在にかなり助けていただいて。一番最初のアフレコがなずな、典道くん、祐介くんがプールにいるシーンだったんです。私、菅田さん、宮野さんが揃って一緒にアフレコしたのはそこの場面くらいだったのですが、なずなから観ているこの作品の世界観が一気に掴めた感覚がありました。
──前作『バケモノの子』とはアフレコの雰囲気も違いました?
全然違います! 「バケモノの子」のときはキャストの方全員が同じブースにいて、自分の番が来ると皆さんがいる前でマイクに向かう、というスタイルだったんです。初挑戦でアニメーションの台本の見方もわからないような状態だったので、ドキドキの連続でした。今回は菅田さんと一緒のアフレコも2回くらいで、あとはほぼ一人だったし、ブースにいらっしゃるスタッフさんも少なかったので、あまり緊張せず挑むことができたのかな、と。自分なりに考えて監督さんに“こうした方がいいですか?”と、なるべく聞くようにしました。なずなの考えていることや行動に関しては、自分に近い部分もあったことも演じる上では大きかったかもしれません。
──それは彼女の行動や言動に、広瀬さん自身が共感できる部分があったり?
年頃の女の子ってすごく複雑じゃないですか。それに加えて、なずなには大人になるしかなかった家庭環境などの背景もあって、何をしても自分の力じゃ変えられないラインっていうのを理解しているから、ある意味で達観しているというか。自分のことを子供だってわかっているから相手に対して余裕を持って接したいと思っているんだけど、そこはやっぱり年齢的に追いつかなくて、真逆の態度をとったりしちゃう。私もじつはそういうタイプで、内心焦っていても顔に出さないし、出ないし、言わないし。だけど気になることに対しては反射的に、強めの言葉として意図してない状況でポロっと出たりしちゃう。私の中にも、なずなっぽい部分は確実にありますね。だから、一見気まぐれで、典道くんたちを振り回して見えるような行動や言葉にもちゃんとなずなの中では意味があるんですけど、特に男性には理解しがたい部分なのかもしれません(笑)。
──そうですね、今作のスタッフ陣も男性ばかりですし。
年頃の女の子の胸の内っていうのは、経験した人じゃないと理解するのは難しいんじゃないかなあ。でも、だからこそなずなみたいなヒロイン像を描けると思うんです。ふわっとしていて掴めなくて、憧れの存在だけど近寄って行ったら突き放されそうな強さ、弱さの中にある男気、なずなの持つ魅力は男性たちの理想なのかなって思ったりもしました。