Jul 30, 2025 column

マーベル家族愛がフランチャイズを再起動 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』 (vol.69)

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4人のミュータントが繰り広げるマーベル最新作『ファンタスティック4:ファーストステップ』。先週末より日米同時公開され、全世界オープニング興収2億ドル越えで3週目の『スーパーマン』を抜き、米興収週末トップのオープニングを記録した。サム・ライミ監督『スパイダーマン』(2002) からマーベル実写化が弾け、ジョン・ファヴロー監督作『アイアンマン』(2008) を起爆剤に、続々とそのキャラクターたちがとびだしていったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)も今年でフェーズ6。映画『ファンタスティック・フォー』の過去作はどれもB級映画で、マーベルファンを悩ませてきた。もともと主人公の4人の中の2人(インビジブル・ウーマンのスー・ストームとヒューマン・トーチのジョニー・ストーム)が姉弟という設定で、家族の絆を売りにしていた作品だが、MCUブランド再起動で、Mr.ファンタスティック (科学者リード) とインビジブル・ウーマン (スー) がすでに夫婦で、チームは家族同然という設定。潤沢なハリウッド予算で近未来レトロなインテリアや世界観は見事。お馴染みの白とブルーのスーツもスタイリッシュだが、マーベル通でない映画ファンはそれだけで満足できるのか。このコラムでは、新作を見る前に学習しておきたいアメコミの神様ジャック・カービーのビジョン、そして劇場未公開のロジャー・コーマンが制作を務めた幻の映画『The Fantastic Four』(1994) をご紹介。

マーベルの伝説:ジャック・カービーvsスタン・リー

アメリカ、そしてハリウッドのアメコミファンの間で、コミックブックの編集者から映画プロデューサーを務めたスタン・リーを知らない人はいない。オリジナルのコミック作品のクレジットにはスタン・リーとジャック・カービーの名が常に並んでいるが、”ジャック・カービー” の熱烈なファンは、この「ファンタスティック・フォー」はジャック・カービーが作りだし、スタン・リーはただのコピー・エディターで、ジャックが台詞もページの裏に書き出して物語を作画で完成させていたと主張している。マーベルコミックの複雑な作業のために、その著作権、財産権にあいまいな部分が多かったのは否めない。もちろん、”スタン・リー”の熱烈なファンも多く、スタン・リーの存在なしにマーベル作品がここまでにならなかったことは確かだと反論している。伝説のアーティスト、ジャック・カービーは、キャプテン・アメリカ、X-MEN、ハルク、キャプテン・マーベル、マイティ・ソーなど偉大なスーパーヒーローを作り上げてきた天才。ジョー・サイモンとともに「キャプテン・アメリカ」(1941) を世に生み出したジャック・カービーはその2年後、フランスの戦場に米軍として駆り出され、第2次世界大戦の悲惨さを経験。追い詰められた人間の非情さや核爆弾、放射能や化学実験など、人間の体に影響する脅威が戦後の彼のイマジネーションを駆り立てたに違いない。

ファンタスティック・フォーのメンバーは4人。天才発明家で科学者のリードは人間の進化に多大な影響を与えた嵐が地球に接近していることを突き止め、人間の遺伝子情報研究のため、宇宙飛行のミッションを決意。相棒は同級生のベン、そして元恋人で科学者のスーとその弟で宇宙飛行士のジョニー。宇宙ミッションに関わった際に嵐に飲み込まれ、4人とも宇宙嵐の放射線に巻き込まれるが、無事、地球に帰還。しかし、それぞれがゴム人間、怪力男、透明人間、火の玉として飛べる発火人間など、スーパーパワーを持つミュータントに生まれ変わる。人気悪役は、同じ科学者で4人とともに宇宙ミッションに同行してミュータントとなったドクター・ドゥームや、公開された新作映画にも登場する仁王像のような宇宙神ギャラクタス、そして、シルバー・サーファーというジャック・カービーが生み出したキャラクターも人気で、新作映画では映画版シルバー・サーファーが主人公4人の運命を揺るがす役となって宇宙から舞い降りてくる。

コミック制作過程では、スタン・リーとジャック・カービーが大体のシナリオを相談し、ジャック・カービーが想像を膨らませて登場人物を描き、作る過程の中で、新キャラクターを登場させて物語を膨らませていったという。過去のジャック・カービーのインタビューを確認すると、この「ファンタスティック・フォー」のアイディアを考えついたことについて、「僕の仕事は本を売ることだからね。今までのスーパー人間とは別のキャラクターを作り出さなくてはならない。」と職人気質。彼がDC時代に手がけた「チャレンジャーズ・オブ・ジ・アンノウン」(1957) というアメコミは、飛行機事故から奇跡的に生還した4人の冒険家チームが未知の怪物と戦うコミックで、それを基に、「ファンタスティック・フォー」(1961~) の設定を構築し、舞台を宇宙と地球上のミュータントに置き換えて書き直したという説もある。

アメコミ「ファンタスティック・フォー」は1961年から発行され、ジャック・カービーが1970年半ばまでに102話まで作画に関わり、彼が描き残した途中のビジュアルやストーリー (103話) は、2008年にスタン・リーが筆頭となって「Fantastic Four:The Lost Adventures (原題) 」 という本として出版されていて、2人の不仲説もどこまでなのかは推測の域を出ない。コミック「ファンタスティック・フォー」はその後、スタン・リーを筆頭に、さまざまなクリエイティブチームで続けられ、最終611話まで発行されている。1967年にはじまったABCテレビのアニメシリーズ「The Fantastic Four(日本タイトルは「宇宙忍者ゴームズ」)」がハンナ・バーベラ・プロダクションという2人の監督チーム、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ、そしてアレックス·トスのキャラクターデザインによって放映され、さらなるアメコミファンが誕生。そしてハリウッドと組んだマーベルが、現在の映画コンテンツを展開させ、2009年にウォルト・ディズニー・カンパニーのマーベル・エンターテイメント買収によって、コアなアメコミファンが愛するコンテンツの世界が一般に広がり、今年はさらなるMCU再起動ということで、新キャストが続々、登場してくる年の始まりなのだそうだ。