『SR サイタマノラッパー』(2008)から『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』(2017)、『ギャングース』(2018)など、人間の熱力を映画に焼き付ける入江悠監督の新作は実話がベース。本作『あんのこと』はある少女の壮絶な人生を綴った2020年6月の新聞記事に着想を得て撮りあげた人間ドラマです。貧困家庭に生まれ育ち、刑事との出会いによってドン底の生活から這い上がろうとした【香川杏】の姿を、『サマーフィルムにのって』(2020)や『由宇子の天秤』(2020)、今年放送となった「不適切にもほどがある!」など多岐に渡り活躍する河合優実が熱演。共演に佐藤二朗、稲垣吾郎と興味をそそるキャスティングです。今回は、ドラマに映画と多忙を極める主演の河合優実さんにお話を聞きました。
――本作のベースなった新聞記事を河合さんは読まれたと伺いました。その時、どんな感想を持たれましたか。
はい、読みました。本当にもう‥‥、実際の記事なので当たり前かもしれませんが、映画『あんのこと』以上に直接、胸に刺さる様な感じがありました。“本当に彼女は居た(実在した)んだ”ということを凄く感じます。
けれど記事を書かれた方は亡くなった女の子のことを取材しているわけではありません。薬物依存から更生していくその子の姿を追って何本かの記事を書いていたら、その子が亡くなってしまったんです。映画では稲垣吾郎さんが演じられた【桐野達樹】とまったく同じ立場なので“その時はいったいどんな気持ちだったんだろう”と、記者の方のことも凄く考えてしまいました。
――その方をモデルにした物語によって、そういう状況にある子ども達を救う方法や、少しでも居心地の良い方へ行けるように、私達大人に何が出来るのか考えるための映画だとも思いました。【香川杏】を演じるということをご自身の中ではどう思われていたのですか。
怖かったです。怖いというか‥‥、“演じていい”と思いきれない部分が自分の中にずっとありました。実在の人物をモデルにした作品なので“見知らぬ私があなたの役を演じていいですか?”と生きていたのなら本人に聞けますよね。でも亡くなっているので、それがどうしても出来ない。そのことを今もずっと考えています。
質問しようとしても、許可を取ろうとしても何も返ってこない人物について映画にしようとしていることは、入江悠監督をはじめ、皆さんが理解していて、それを乗り越えないといけないということもわかっています。でも、私はそこが拭い去れないし、拭い去ることが覚悟ではないかもしれないし、今も背負ったままのような感覚です。
――映画の冒頭あたりに佐藤二朗さん演じる【多々羅保】に薬物を出すよう言われ取り調べを受けるシーンで、【多々羅】の滑稽な姿にほだされて、最初は口を閉じているのに薬物を出しますよね。その時にうっすらと微笑んだのが凄く印象的でした。あの役作り、アプローチは凄いと思いました。そのシーンはどのように生まれたのですか。
確か台本に書いてあった気がします。つい吹き出しちゃって、その吹き出したことから、自分が負けた事を認めて薬を出すみたいな書き方だったような気がします。笑わせようとしている人に対して、笑ってしまったので自分の負けみたいな感じになって“じゃあいいか”という気持ちになれたのではないかと思います。
――その笑い方が絶妙でした。
どんな感じでしたっけ?ニヤって感じでしたか。
――そうそう。笑い転げるでもなく絶妙な感じ。バランスというか帳尻合わせは、どのように演じていくのですか。
『笑う』だったら、どのくらい笑ったらいいのかを結構、本(台本)を読んで考えてから現場に行きます。例えば、その人が出演しているシーンが映画の中に何個かあって、その流れですよね。シーン毎にどう感情が流れていくのが一番面白いのかを考えていく感じです。