コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第87回
俳優の村上淳を父に、歌手のUAを母に持ち、その存在感ある個性で若手俳優の中でも独特の光を放つ、俳優の村上虹郎が、6月3日に新宿武蔵野館で行われた、映画『武曲 MUKOKU』の初日舞台挨拶に登壇した。
本作で村上は、ラップのリリック作りに夢中だが、天性の剣の才能も持っている高校生【羽田融】を演じているが、村上自身も幼少期に剣道を習っていたこともあり、剣には馴染みがあったようだ。
役作りに関しては「原作に助けられた」と言い、剣道の初心者である【融(とおる)】が“下段の構え”を見せるシーンも「原作からインスピレーションを受けて適当にやってます」と明かしていた。
そんな村上演じる【融】が相対するのが、綾野剛演じる凄腕剣士の【矢田部研吾】。 【研吾】は、“あること”がきっかけで剣を棄て酒に溺れる日々を過ごしているのだが、役へのアプローチについて綾野は「救いがないというか、ここまで自分の役のことを可哀想と思ったのは初めてでしたし、こんなに役を生きてるのも初めてなくらいでした。体内に入ってきて浸食されていくというか、体もアスリート並みにして現場に入ってました」と語っていた。
また、ラストには激しい嵐の中で2人が決闘するシーンがあるのだが、綾野のことを「RPGのラスボス」と称し大きな存在として捉えていた村上に対し、綾野は「熊切さんは、疲弊していくのも映してくれる監督なので、自分としてはただひたすらに疲弊していけばいいんだと思ってました。本当に楽しくて、「早く殺してやるからかかってこい!」って感じでしたね(笑)」と、笑みを浮かべながら撮影時を振り返っていた。
さらに、『最近何かと戦ったエピソード』について聞かれた綾野は「改めて思ったのは、自分と向き合うことをやめたら役者としてやっていけないということです。肉体的にも精神的にも自分と向き合わないと、見て頂くお客さんに届かないんです。「自分はちゃんと戦えてるか?」と、今の自分の立ち位置を実感して、体感して、それを皆さんに解き放っていかないとと思っています」と、綾野らしい独特な言葉選びで表現していた。
一方の村上は、最近卒業したという自動車教習所の話に触れ「応急救護で芝居するじゃないですか。僕の時は7人くらいいて、先生も含めてみんな野郎で、僕は一番最後だったんですけど、『あいつ役者だろ?』って数人にバレてたので、本業だしちゃんと声出していこうと思ってやってました(笑)」と、自分の立ち位置を実感して、体感して、いついかなる時も役者であることを忘れないように心掛けていた村上だった。
舞台挨拶にはその他、熊切和嘉監督も登壇した。
映画『武曲 MUKOKU』(キノフィルムズ配給)
映画『武曲 MUKOKU』(キノフィルムズ配給)は、現代の鎌倉を舞台に、生きる気力を失った凄腕剣士と、天性の剣の才能を持つ少年が繰り広げる宿命の対決を描いた、芥川賞作家・藤沢周による小説「武曲」を映画化した作品。
公式サイト http://mukoku.com/