コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第84回
「第70回カンヌ国際映画祭」の授賞式が、現地時間5月28日に行われた。
コンペティション部門に選出されていた『光』は惜しくもパルムドールを逃し、河瀨直美監督にとっても7度目の正直はならなかった。
が、授賞式前日には、日本人女性監督としては初となる「エキュメニカル審査員賞」を受賞した。 同賞は、キリスト教徒の映画製作者、映画批評家らによって1974年に創設され、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られる賞で、日本人監督作では過去に、青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』が2000年に受賞している。
受賞に際し、河瀨監督は「映画というのは人を繋ぐもの。人は人種も国境も越えていくもの。映画館の暗闇の中で、映画という光と出会うとき、人々はひとつになれる。カンヌでも一体感を持てたことがうれしかったです」とコメントした。
また、27日には新宿バルト9にて初日舞台挨拶が行われ、カンヌから帰ってきたばかりの水崎綾女、神野三鈴、藤竜也が登壇。 さらに、劇中で映画の音声ガイドの声を“ノーギャラ”で担当した樹木希林が登場すると、「お断りしたんですが、無理やり連れてこられました」と口にし、会場を沸かせていた。
壇上では、カンヌに残っている河瀨監督と永瀬正敏とSkypeでやり取りする場面も見られ、樹木は「映画を作ってる時は綺麗な心で作ってるんだけど、それが脚光を浴びると一変するの。それで潰れてしまうか花開くかはその人の器量次第ね」と前置きし、永瀬に対して「永瀬さんは賞をもらえただけで一喜一憂する人ではないわね」と、河瀨監督に対しては「河瀨さんは元々勘違いしてるところがあるから」と鋭く分析すると、“中継”の影響で少し遅れて笑顔を見せる2人の姿がスクリーンに映し出された。
そして、「一番変わりそうなのはこの辺ね。今度写真を撮ったら『やめてください』って言われそう」と樹木が指差したのが、水崎だった。
樹木から「(河瀨監督の現場は)大変だったでしょう? 自殺しようとか思わなかった? 消えてなくなりたいとか思わなかった?」と矢継ぎ早に質問されると、水崎は「そんなことないです(笑)。必死に食らいついていこうと思ってました」と、苦笑いを浮かべながらも真っ直ぐな言葉で返すと、「そうよね。それだけの値打ちはあったわよね」と、温かい眼差しを向けていた樹木だった。
初めてのカンヌを振り返り、水崎は「圧倒されっぱなしでした。2300人の観客の皆さんと一緒に大スクリーンで観ることができて本当に嬉しかったです。映画を観終わった後には、海外の方から『美佐子(役名【尾崎美佐子】)の目の感情がすごく表れていて良かったよ』という言葉を掛けて頂けたので安心しました」と、未だ興奮冷めやらぬ様子だった。
元々は歌手になりたくてこの世界に入った水崎だったが、今回のカンヌでの体験、そして、河瀨直美監督との経験は、彼女にとって大きな財産となり、女優として進むべき道を明るく照らしてくれる“光”となったに違いない。
映画『光』(キノフィルムズ/木下グループ配給)
映画『光』(キノフィルムズ/木下グループ配給)は、視覚障碍者のための「映画の音声ガイド」の制作に携わる女性が、視力を失いゆく天才カメラマンとの出会いを通して、成長し変化していく様子を描いた作品。
公式サイト http://hikari-movie.com/