26歳の折村花⼦は、幼い頃からの夢だった映画監督デビューを⽬前に控えていた。だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃、助監督からのセクハラ、うまくいかない現状に怒りを覚えるが、ふと立ち寄ったバーで空気は読めないがやたら魅⼒的な舘正夫と運命的に出会い、ようやく人生が輝き出したかに見えた。ところが、卑劣なプロデューサーに騙され、花子は全てを失ってしまう。正夫に励まされるように反撃を決意した花子が向かったのは、10年以上⾳信不通の家族の住む家だった。
『舟を編む』(2013)をはじめ、発表する作品がいずれも国内外で高く評価されてきた石井裕也が、本作『愛にイナズマ』の監督・脚本を担当、「アフターコロナ」の現代を舞台に愛と希望とユーモアに満ちた “笑って泣ける ” ストーリーを繰り広げる。主人公の花子と正夫に松岡茉優と窪田正孝、花子の家族に佐藤浩市、池松壮亮、若葉竜也を迎え、多くの演技巧者たちが脇を固める。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『愛にイナズマ』の石井裕也監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。
コロナ禍で見えてきたもの、伝えたいこと
池ノ辺 映画、拝見しました。思わず泣いてしまいました。
石井 ありがとうございます。
池ノ辺 『愛にイナズマ』というタイトルと、最初の雰囲気で恋愛ものの映画なのかと思ったら、家族の愛の物語でした。監督は脚本も書かれたんですよね。
石井 脚本は初稿からかなり修正していきました。主人公のふたり、花子と正夫のロマンスの要素は最初からあったんですが、そこからどんどんブラッシュアップしていった感じです。
池ノ辺 英語のタイトルが『Masked Hearts』、“ マスクで覆われた心 ” という意味だとか。この映画にとってやはり「コロナ」というのは重要な一つのファクターになるんでしょうか。
石井 コロナになって、僕たちはずっとマスクをして、それが当たり前になっていました。それはある意味では仮面を被って生きているようなものです。その下に本音や嘘や、いろんなものを隠していたわけです。そこをひとつひとつ剥がしていって、その奥にある本当のものを見つめていくような映画にしたいと思いました。
池ノ辺 コロナの影響で、撮影自体がままならないという状況でした。そんな中での映画化というのは大変だったんじゃないですか。
石井 「これは今やらなきゃダメだと思います」と言ってプロデューサーに脚本を渡したら、すごくスピーディーに映画化に向けて動いてくださって、時間のない中でこうして形にすることができました。
池ノ辺 コロナ禍での街の様子、さまざまな不条理とか、そういったものがリアルに表現されていました。それは監督にそういう表現をしようという思いがずっとあったんですよね。
石井 そうですね。あそこでみんなが感じた共通の苦しみとか悲しみ、見てきた異常事態、そういったものをベースにしようということはありました。そして、だからこそ「今じゃなきゃ」と思ったんです。