『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』が8月11日公開となった。本作はタランティーノ”ファミリー”とも言える、出演俳優とスタッフたちが撮影時の逸話を交えて、タランティーノとは、タランティーノ作品とはなんなのか、を解き明かすドキュメンタリー映画である。本作の魅力に迫るとともに、「映画への愛が十分にあるなら、いい映画を作ることができる」という彼の過去作品を振り返っていきたい。
本人は出てこない、一切のタブーなし
映画はフィルムで撮る。脚本はペンでノートに書く。現場には携帯電話を持ち込ませない。プレビューのアンケート結果に惑わされない。クエンティン・タランティーノは、今の時代にあって極めてアナクロなフィルムメーカーだ。
1992年に監督デビュー作『レザボア・ドッグス』でその才能を映画界に知らしめた時から、彼は決して自分のスタイルを崩そうとはしなかった。彼はこれまでに9本の劇場用作品を発表しているが、その全てが挑戦的であり、反時代的であり、自分が愛するB級映画へのオマージュに溢れている。見事なまでに、「タランティーノという唯一無二のジャンル」を全うしているのだ。
彼は、「長編映画を10本撮ったら映画監督を引退する」と公言。すでに最終作となる10本目の脚本を書き終え、秋頃には撮影に着手する予定だ。『The Movie Critic』と呼ばれるその作品は、どうやら70年代L.A.を舞台に、映画評論家ポーリン・ケイルを主人公に描いたストーリーになるらしい。映画業界内幕ものという意味では、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)に近い作品になるのかも。 そんな鬼才のこれまでの歩みを描いたドキュメンタリー映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』が、現在公開中だ。いや、「語る」というよりは、「暴く」と言った方が正しいかもしれない。ゾーイ・ベル、ブルース・ダーン、ロバート・フォスター、ジェイミー・フォックス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ダイアン・クルーガー、ルーシー・リュー、マイケル・マドセン、イーライ・ロス、ティム・ロス、カート・ラッセル、クリストフ・ヴァルツ‥‥。彼の作品に出演した俳優たちが、その逸話と秘話を一切のタブーなしで答えているのだから。
本作の監督を務めているのは、リチャード・リンクレイター監督のドキュメンタリー映画『21イヤーズ:リチャード・リンクレイター』(原題)(2014)を共同監督として手がけた、タラ・ウッド。この作品もまた、キアヌ・リーブス、マシュー・マコノヒー、ザック・エフロン、イーサン・ホーク、ビリー・ボブ・ソーントンといった俳優たちが、リンクレイターその人や映画について語る構成が採られていた。
『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』で筆者が非常に興味深く感じたのは、タランティーノ自身が登場していないこと。しかも彼は、タラ・ウッドと面会することすらも拒否したのだという。
「彼は、私に会いたくないとはっきり言ったの。(中略)もちろん、彼は映画製作のあらゆる側面を理解しているので、もし彼が映画に参加していたとしたら、それは偏見とみなされるかもしれない」
(youtubeのインタビューより、タラ・ウッドのコメントを抜粋)
一定の影響力を持つタランティーノがドキュメンタリーに関与することで、作り手にバイアスをかけてしまう。それを彼は避けたかったのではないか。映画に対する誠実な態度が垣間見えるエピソードと言えるだろう。