Feb 23, 2023 news

9.11テロ後、“損失をお金に算出する合理性 vs 無数の悲劇による心の傷”を探りたかった監督の思い 映画『ワース 命の値段』

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【サラ・コランジェロ監督 インタビュー】

ーー 脚本を読んだとき
2018年に脚本を読んで、その時にはマイケル・キートンの主演も決まっていて、レジェントと一緒に仕事できるのはとても楽しみでした。脚本で惹かれたのは、9.11被害者補償基金の複雑な使命と、ケネス・ファインバーグ弁護士が直面するモラルの葛藤です。“命に値段をつける”ことは非人道的であり、哲学的な課題でもある。失われた命を取り戻すことはできなくても、失われた収入や生活を取り戻すことはできるかもしれない。悲劇により傷ついた何千もの家族の傷を癒やすことはできるかもしれない。損失をお金に算出する合理性と、無数の悲劇による心の傷がどのようにぶつかり合うかを監督として探りたいと思いました。

ーー 映画化するうえでのリサーチ
ファインバーグの回想録『What Is Life Worth?』や出版されている被害者たちの物語を読んだりしました。脚本でどうしても入れたいと思ったのは、回想録に書かれていた不法移民の遺族と、同性カップルの相手が補償を受ける対象になるのか、というエピソードです。この2つのエピソードに心を動かされ、これはどうしても伝えたい物語だと脚本家のマックス・ボレンスタイン相談してストーリーに入れました。

ーー 本作で表現したかったこと
ファインバーグと共同パートナーのカミール・バイロスが、どうすれば犠牲者たちを満足させられるのか、その過程でどのような心境になるのかを表現したかったのです。私にとって本作は、計算機のような男が人間的に変化していくまでの道のりを描いています。合理的な力に頼っていた人が思いやりの力と、柔軟性を身につけていく。彼は資本主義の構造の中で努力し、時にはそれを覆し、人間性を見出していく。この変化は監督としてもインスピレーションを受けました。

ーー マイケル・キートンとの仕事について
キートンはプロデューサーにも名乗り上げてくれ、作品についてリサーチしたり、脚本家と話し合うこともあった。一筋縄ではいかないキャラクターに挑戦し、素晴らしい演技をしてくれました。キートンとバイロス演じるエイミー・ライアンから学んだことは、マイクロマネジメントしないということです。2人の演技には驚かされることばかりで、彼らの直感に任せてやってもらうのがいいんだと学びました。

ーー 映画に込めた思い
歴史の中には、日常生活が失われ、私たちが相互に結びついていることを実感する瞬間があります。9.11は、ほとんどのアメリカ人にとってそのような瞬間でした。本作は、人々が国を再建するために党派を超えて団結した瞬間を描いています。悲劇が起きると、全体の一部であると感じたい強い欲求がしばしば生じます。利他主義や協力は、パニックや個人主義に奇跡的に打ち勝つことができる。私たちがいかにお互いに結びついていたか、そして今もそうであるか、本作が思い出させてくれることを願っています。9.11の甚大な影響と、消防士から弁護士まで、政治家から配管工まで、力を合わせて世界を元に戻そうとした偉大な人々について、観客の皆さんが理解してくれることを願っています。

作品情報
映画『ワース 命の値段』

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ発生後まもなく、政府が被害者と遺族を救済するための補償基金プログラムを立ち上げる。特別管理人を任されたのは、弁護士ケン・ファインバーグ。調停のプロを自認するファインバーグは、独自の計算式に則って個々人の補償金額を算出する方針を打ち出すが、さまざまな事情を抱える被害者遺族の喪失感や悲しみに接するうちに、いくつもの矛盾にぶち当たる。約7000人の対象者のうち80%の賛同を得ることを目標とするチームの作業は停滞する一方、プログラム反対派の活動は勢いづいていく。期限が刻一刻と迫るなか、苦境に立たされたファインバーグが下した大きな決断とは‥‥。

監督:サラ・コランジェロ

出演:マイケル・キートン、スタンリー・トゥッチ、エイミー・ライアン

配給:ロングライド

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2023年2月23日(木・祝) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

公式サイト longride.jp/worth/