『おかしな求婚』
俳優、コメディエンヌ、脚本家、そして映画監督として多彩な活躍をしたエレイン・メイは今もっとも注目すべき才人の一人だ。女性監督やクリエイターが正当に評価されはじめた現代にあって、彼女を改めて紹介し作品に触れることの意義は極めて大きい。本作は当時日本で劇場公開されたのみで、Blu-rayや配信はもちろんVHSすら発売されていないことが、今までの彼女への過小評価を物語っている。今回の上映が女性監督や映画界における女性という観点ついても考えるきっかけになることを願う。
『ハリー&サン』(劇場初上映)
ポール・ニューマン監督兼主演を務めた、親子ドラマの傑作。しかし、日本では今では劇場公開の機会はなく、視聴するにはVHSのみという不遇な映画である。監督作も5本目を迎え、ポール・ニューマンの監督としての才能が充実の時にある本作の上映は、映画人ポール・ニューマンの再評価にとって必要不可欠なものとなる。
『メルビンとハワード』
後年の映画作家たちに多大な影響を与えてきたジョナサン・デミ監督の初期のカルト的な人気を誇る本作も、日本ではCS放送と限られた上映イベントで上映されるにとどまり一般公開をせずまま忘れ去られている。本イベントで上映される『愛されちゃって、マフィア』とともに本作を上映することにより、メジャーとインディペンデントを行き来し、今もっとも再評価が必要な監督の一人であるジョナサン・デミの全貌に迫る。
『イシュタール』
現状、エレイン・メイが監督した最後の作品。豪華なキャストやスタッフにもかかわらず、「史上最悪の一本」とも評され、ゴールデンラズベリー賞監督賞を受賞。一方で、クエンティン・タンティーノやマーティン・スコセッシ、レナ・ダナムなどがお気に入りの一本としてあげており、カルト的に人気も博している。日本でもウェブ上のレビューは信じられないくらい低いが、ぜひ本作の真価は自身の目で確かめて欲しい。
『スチームバス/女たちの夢』(劇場初上映)
ジョセフ・ロージー監督の遺作にして、出演者が全員女性という異色作。サウナ施設を舞台に常連客の女性たち同士が様々なことを曝け出し、語り合う。日本ではCSで放映されたのみで、今回の上映が劇場初公開。70-80年代のアメリカ映画傑作選として企画された本特集で、唯一のイギリス映画。同時期のイギリス映画を見ることで、よりアメリカ映画の輪郭がはっきりしていく‥‥かもしれない。
約半世紀に渡って愛される名作をスクリーンで見られる“最高の映画体験”で、今年を締めくくろう。またトークショーも随時開催され、“傑作”と呼ばれるその所以をより深く知ることができる。
【トークショー】
12月17日(土):『ハズバンズ』上映終了後:安川有果(映画監督)×鈴木史(映画監督・美術家・文筆家)
12月18日(日):『愛されちゃって、マフィア』上映終了後:渡部幻(映画批評・編集者)×大森さわこ(映画評論家)
12月21日(水):『スチームバス/女たちの夢』上映終了後:月永理絵(エディター・ライター)×奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)
12月22日(木):『おかしな求婚』上映終了後:渡部幻(映画批評・編集者)×佐野亨(フリーライター・編集者)
昨年末に開催され大好評を博した「70ー80 年代アメリカに触れる! 名作映画鑑賞会」がバージョンアップして戻ってきた。日本でも高い人気を誇るカサヴェテスの怪物的代表作に、惜しくも一昨年逝去されたメルヴィン・ヴァン・ピーブルズの風刺コメディ、現在アクセスが難しいジョナサン・デミ、エレイン・メイ、ポール・ニューマンの監督作、そしてアメリカ人でありながら亡命以降、英仏で作品を発表し続けた孤高の映画作家ジョセフ・ロージーの遺作であり異色作もラインナップ。
2022年12月17日(土)~12月30日(金)
会場:下高井戸シネマ
公式サイト shimotakaidocinema.com