1931年生まれのハンガリーの映画監督、メーサーロシュ・マールタ。女性の主体性を脅かす社会の相貌にカメラを向けてきた彼女は、女性として初めてベルリン国際映画祭金熊賞に輝き、カンヌ国際映画祭での受賞歴をはじめ国際的な評価を得た。
いずれの作品も日本では劇場未公開だったが、この度、メーサーロシュ・マールタ監督特集上映として新宿シネマカリテほか全国にて順次公開されることが決定した。
イザベル・ユペール、アンナ・カリーナ、デルフィーヌ・セイリグ・・・・名だたる俳優を魅了し、アニエス・ヴァルダがオールタイム・ベストのひとつとしてその作品を挙げた、メーサーロシュ・マールタ監督。
彼女は、第二次世界大戦中のスターリンの粛清が吹き荒れる中、両親を亡くし、孤児となってソヴィエトとハンガリーを行き来する人生を送った。
37歳になる1968年から長編映画を撮り始め、残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性たちの姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃さなかった。
今回の特集上映では、珠玉の作品群の中から5作品を日本初公開する。
1975年ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた映画『アダプション/ある母と娘の記録』をはじめ、青春音楽映画の決定版『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(1970年)、ドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせたメーサーロシュが、作為性や修飾を極限にまで削ぎ落した「真実」の記録『ナイン・マンス』(1976年)、結婚生活に絡めとられる二人の女性の連帯を、厳しくも誠実なまなざしで捉えた精緻な秀作『マリとユリ』(1977年)、イザベル・ユペール最初期の重要な出演作であり、見落とすことができない意欲作『ふたりの女、ひとつの宿命』(1980年)。
今回公開された予告映像では、「知りたいんです、この年で子どもが産めるかどうか」という印象的な台詞から始まり、5作品それぞれの象徴的な場面が描かれる。一貫して選択する女性の姿を描き続け、ハンガリー映画の一翼を担ってきたメーサーロシュの片鱗が見える。