Jun 16, 2023 news

「愛の多様性や複雑さを描いた」マリヤム・トゥザニ監督が語る作品に込めたテーマ 映画『青いカフタンの仕立て屋』

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2022年にカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した、映画『青いカフタンの仕立て屋』。この度、日本公開に際して、本作を手掛けたマリヤム・トゥザニ監督のインタビューと、監督から日本のファンに向けたメッセージ映像が先行公開された。

大ヒットを記録した『モロッコ、彼女たちの朝』(2019)のマリヤム・トゥザニ監督が最新作で描いたのは、伝統衣装カフタンの仕立屋を営むある夫婦の物語。母から娘へと受け継がれる大切なドレスを、ミシンを使わずすべてを手仕事で仕上げる職人の夫ハリムは、伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩する。

夫を誰よりも理解し支えてきた妻ミナは、病に侵され余命わずか。そこに若い職人のユーセフが現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。そして刻一刻とミナの最期の時が迫るなか、夫婦はある決断をする。

この度、公開されたのは、先日閉幕したカンヌ国際映画祭で審査員を務めるなど、世界が注目するマリヤム・トゥザニ監督のインタビュー。本作は、モロッコでは先週公開したばかりだが、先に公開されたフランスでは21万人を動員、そのほかの多くの国でも支持され、軒並みトップ10入りを果たしている。

そんな本作について、前作『モロッコ、彼女たちの朝』のように、本作も監督自身の体験が基になっているのでしょうか?という問いにマリヤム監督は「前作のロケハン中、サレのメディナにある美容室を営む男性と知り合い、この出会いがインスピレーションになっています。彼と話しているうちに、心の奥に隠す本当の自分と外に見せる自分を使い分けていると気づきました。残念ながらモロッコでは、同性愛がタブーであるだけでなく、刑事犯罪とみなされる社会なのです。異性愛者でないだけでひっそりと生きなくてはいけないのです。でも、彼が隠す“何か”は本作の核になりました。この映画には”善人”も”悪人”も登場しませんが、私はどんな形でも批判を招かないように細心の注意を払って脚本を書き進めました。」と回答。

ハリムの職業を美容師からカフタンの仕立屋に変えた理由については、「カフタンは大人の女性の象徴で、少女時代の私にとって憧れでした。成人して初めて母から受け継いだカフタンをまとった時、これは次の世代へと物語を繋ぐ、貴重な品だと気づきました。1枚のカフタンが完成するまでに職人は数ヶ月を費やします。そうして完成したカフタンからは、着る人の心に職人の魂と完成までの物語が届くのです。この物語には手間暇かけて作られるカフタンがふさわしいと思いました。残念ながらモロッコではカフタン作りは衰退の一途を辿っています。技術の取得に長い時間がかかるのも原因のひとつでしょう。私が思うに、伝統工芸とは自分が何者かを教えてくれるDNAの一部であり、次世代に伝えるべき宝物です。速さが優先される現代社会ですが、私は伝統の手仕事を守る人々を見つめ、尊敬の念を作品で表現したかった。そんな理由から、本作の舞台を美容室からカフタンの仕立屋にしたのです。」とモロッコの現状と現代社会に対する思いを込めたと明かす。