May 30, 2022 news

第75回カンヌ国際映画祭で2冠!是枝裕和監督 最新作 映画『ベイビー・ブローカー』レポート

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第75回カンヌ国際映画祭にて、現地時間28日(土)に「コンペティション部門」の授賞式が行われ、是枝裕和監督の最新作、映画『ベイビー・ブローカー』の主演ソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞した。カンヌ国際映画祭において、韓国人俳優が「最優秀男優賞」を受賞するのは初となる快挙。さらに、是枝裕和監督作品がカンヌ国際映画祭で同賞を受賞するのは、2004年に『誰も知らない』で柳楽優弥が受賞して以来2度目となる。また是枝監督は、本作品で「エキュメニカル審査員賞」(カンヌ国際映画祭の独立賞で、キリスト教関連の団体から「人間の内面を豊かに描いた作品」に与えられる賞)を受賞しており、本賞と合わせて2冠の快挙となった。

現地時間26日(木)、カンヌ国際映画祭のメイン会場となるPALAIS DES FESTIVALSにて行われた公式上映後、12分間のスタンディングオベーションについて是枝監督は、「すごく良い反応をいただいたのですが、ちょっと長いなと思い、ティエリー(カンヌ映画祭総代表)にそろそろと手招きしたのですが、上の観客を見るようにと目で合図されて、上を見て手を振ってというのを3回くらい繰り返したので‥‥でも、それも彼の演出なので。本当にあたたかい握手と笑顔に包まれたいい時間だったと思います。」と語った。出演者とも「上映中笑い声がおきてすごくホッとした」と話し、上映後は緊張のほぐれたいい笑顔がみられたそう。

なぜ最近日本で映画をとらないのか、日本と韓国の俳優の違いかという問いに対しては、「今回のキャストさんは素晴らしいですが、日本の役者さんも決して負けてはいないと思います。日本のトップの方たち、例えば役所広司さんとか安藤サクラさんとかは一緒にやって学ぶことが非常に多いですし。日本での企画もきちんと動かしています。海外で撮ったことをどう日本での映画作りにフィードバックして何を変え、何をそのままでいいのかを持ち帰りたいと思っています。」と語った。

現地時間27日(金)、公式上映の正装とはうって変わってカジュアルな装いでフォトコールに登場した是枝裕和監督。白い爽やかなジャケットに身を包んだソン・ガンホと、個性的なハーフパンツスーツでラフに決めたカン・ドンウォン、タイトな白いミニスカートのスーツからのぞくスラリとした足が目を引くイ・ジウン、さらに白いパンツスーツの胸元がセクシーなイ・ジュヨンも揃って世界から集まったスチールカメラマンたちの前で笑顔で撮影に応じた。カメラマンたちからは「コレエダー」という声が飛びかい、サングラスをつけるよう指示されたり、監督もそれにこたえたりと、和気あいあいとしたフォトコールとなった。

―― (監督へ)キャラクターたちはみな孤独です。それでいて親密なグループを形成する家族の話ですが、今回もまた自分たちが選んだ家族の物語を描いていますが、どうしてそういう作品にしたのですか?

監督 今回、車に乗り込む者たちの疑似家族の旅を描こうとおもって書き始めたプロットで、そこに乗り合わせる人たちが、あらかじめ色々な形で、一般的に考えられる普通の家族、親子という者から排除されている、切り離されて生きてきたという人たちが、ほんの短い間同じ車に乗るという話にしたいなと思って書きました。そのことによって、わたしたちが考えている、考えて捉えている“家族”というものを捉えなおしたいという気持ちもありましたし、彼らが一瞬だけ手にすることで何かひとつだけいいことをする、すごく小さな悪人だったり、悪意をもって旅に同行した人たちが、ひとついいことをする、そんな物語を紡いでみたいと思って作った映画です。

―― (役者さんへ)4名とも素晴らしかったです。是枝監督と他の韓国監督たちとの一番大きな差はなんですか?教えてください。/(監督へ)釜山は映画人にとってとても大切な場所だと思いますが、その釜山を舞台にした理由を教えてください。

ソン・ガンホ 是枝監督と韓国の監督との違いは、是枝監督は食が大好きなところです。美食を好み、食べることが好きで韓国料理が好きです。他の韓国の監督との大きな違いでした。

カン・ドンウォン 監督と仕事して、他の監督はわからないですが、現場では本当にそこに一緒にいてくれた。それは本当に素晴らしかったです。役者と共にいてくださる。そして感情をディティールにわたって捉えて下さる。

イ・ジウン 私にとっては監督と違うのはまず同じ言語を話しません。なので努力をします。ちょっとしたディティールも見逃さないように。原語のバリアがあるから、より集中しました。他の参加した映画に比べて面白い体験でした。

イ・ジュヨン 監督との仕事はすばらしいもので、もちろん通訳は入れましたけども、それ以外はそんなに大きな差は感じませんでした。国籍が違うというだけで、非常に監督はリラックスしてましたし、私たちといても、そして現場の雰囲気もリラックスしたものを作ってくださったので撮影も快適でした。

監督 釜山のロケーションについては、映画祭には度々参加しているのですが、いつも食べるのに一生けん命で、撮影を前提に街を見ていなかったというのもありまして、今回ロケハンで結構色んな場所を候補として回らせていただきました。その中でやはりあの町は坂道が多い。山が迫っている。その立地の高低差みたいなものを活かした場所を、撮影のホン・ギョンピョさんと一緒に探して、結果的にああいう場所を選んで撮影しました。とても魅力的な街で、ソウルとの違いもワンカットで出るという、とても面白い撮影でした。

―― (ソン・ガンホさんへ)監督はパルムドールを2018年に受賞して、フランスで、そして韓国で撮影されてこられてました。監督のチャレンジをどうおもわれますか?

ソン・ガンホ 監督は素晴らしい作品を手掛けられてきた。例えば『真実』。フランス映画です。今もいろんな作品企画を手掛けられていることを知っています。監督は常に挑戦を受ける方で、そこに感銘をうけます。あるいは感服しています。この作品もそうです。最もワクワクさせる作品の一つです。日本と韓国では文化的な違いがある。そういうことがあっても私たちはそれを乗り越えて幸せに一緒に仕事をすることができましたし、そのことが逆にこの仕事を面白いものにしてくれました。

―― (監督へ)監督はトリロジー三部作をこの作品で完成させているような感覚はありますか?『そして父になる』、『万引き家族』、この作品で終わらせている感覚はありますか?またフランスで映画を作りたいと思っていますか?

監督 繋がりがあるといえばそうかもしれない。『そして父になる』を撮って、こういうインタビューに答えていると、女性は子供を産むとみんな母親になれるけど、男性はなかなか実感が持てなくて、父親になるには何か階段をのぼっていかないとなれないんです、というような実感を話したときに、友人から批判をされまして。女性でも産んだ人たちがすぐに母になるわけではない。母性というものが生まれつき備わっているのだということ自体が、やはり男性からみた女性に対する偏見であるということを指摘されて、それはすごく反省しました。

そのことから、『万引き家族』の安藤サクラさんが演じた産まないんだけど母親になろうとする女性と、今回イ・ジウンさんが演じた産んだんだけれども、色んな事情で母になることを諦める女性という、その2人の女性像というのが、自分なりにそこの反省から生まれた2人の女性像という形で。これは本当に姉妹として描いているんですね。だから僕の中でも直線的に『そして父になる』からこの『万引き家族』と『ベイビー・ブローカー』はつながっております。

作品情報
映画『ベイビー・ブローカー』

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストがある施設で働く児童養護施設出身のドンス。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨンが、赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジンと後輩のイ刑事は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが‥‥。

監督・脚本・編集:是枝裕和

出演:ソン・ガンホ 、カン・ドンウォン 、ペ・ドゥナ、イ・ジウン イ・ジュヨン

配給:ギャガ

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2022年6月24日(金) 全国公開

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