今までにない感情の揺れや振れ幅がスクリーンに表れていたら
──インタビューの冒頭でこういった作風の映画は「蛇にピアス」以来10年ぶり、とお話されていましたが、10年前と今、ご自身で変化したなと思うことはありますか?
変わらない部分、変わった部分、どちらもあります。単純なところで言えば、現場のスタッフさんがどういう部署にいて、どういった役割を負っているのかがわかるようになったりだとか。あの頃は、たくさん大人がいるなーと思うくらいだったので(笑)。あとはやはり、自分が引き摺り込まれるくらいの作風の映画が好きなのかもしれないなと感じましたし、ベッドシーンは何度経験しても、やっぱり傷つくなと思ったり。色々な感情がありました。
──美紗子はミルク飲み人形を心の拠りどころにしていましたが、吉高さんが拠りどころにしているアイテムがあれば教えていただきたいです。
小さい頃は時計のネックレスをずっとしていました。たぶん何かに影響されたんでしょうけど、「お母さんの形見なの」というセリフに憧れて、意味もわからずに言ってましたね。お母さんは今でも元気にしていますけど(笑)。この仕事を始めたばかりのときは、大好きな「魔女の宅急便」に出て来る黒猫のジジの小さなぬいぐるみを持ち歩いて、緊張する本読みのときに握りしめて汗でビショビショにしたりしていて。当時の私にとっては、拠りどころになっていました。今でも緊張するときはしますけど、それはもう自分で乗り越えるしかない、と考えられるようになりました。
──美紗子を演じる上で、吉高さんなりの演技プランなどはありました?
イメージを膨らませる作業はたくさんしましたが、ここでこうして、こっちではああして、っていう風に組み立てたりはしなかったです。ただ、人を殴るシーンではちょっと興奮している自分を感じたし、ダムでのシーンは今までに感じたことない方向から感情を持ってきたり、頭でプランを組むことよりも、感情のベクトルを広げていく作業の方が多かったような気がします。
──特に印象的なシーンを挙げるしたらどこでしょう?
ダムのシーンですね。30カットくらいを3日くらいかけて撮ったので、とにかく苦労しました。じつは現時点で(※8月中旬の取材時)まだ完成した作品を観ていないので、どんな風に仕上がっているのかが楽しみなんです。自分が撮影に参加していないパートもありますし、果たして美紗子はどうなってしまうのか、美紗子の生き様がどんな風に描かれているのか不安も抱えつつ、良い結果がスクリーンに表れているといいな、と思っています。
──では最後に、吉高さんのオススメ書籍やコミックを1冊伺えますか?
「東京タラレバ娘」です。今年の1月期ドラマで演じた作品の原作コミックなのですが、オファーをいただいてすぐに移動中の新幹線の中で1話から読み始めたら声を出して笑ってしまって。普段あまり本を読まないし、コミック原作の作品に出演すること自体もかなり久しぶりだったのですが、絵があるだけでこんなにイメージしやすいんだなってことを改めて実感しました。小説は読んだ人それぞれの頭の中に違うイメージが浮かぶから輪郭が見えにくいけど、コミックは目指す先を共有することができるので。そこは怖い部分でもありましたが、演じる上でのプランは立てやすかったです。ドラマの撮影中はまだコミックも連載中だったので、結末が気になってしょうがなくて。撮影終了後に原作も最終回を迎えたんですけど、すぐに読みました。終わってしまうことがさみしかったですけど、見届けることができたな、という風にも感じました。
取材・文 / 加藤蛍
撮影 / 名児耶洋
吉高由里子
1988年生まれ、東京都出身。2006年に映画「紀子の食卓」で映画デビューし、第28回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を獲得。07年「蛇にピアス」で第32回日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞新人賞などを受賞。13年「横道世之介」で第68回毎日映画コンクール助演女優賞などを受賞。2014年NHK連続テレビ小説「花子とアン」でヒロインを演じるなど、幅広い作品で活躍中。2018年公開予定の映画「検察側の罪人」ではヒロインを演じる。
映画『ユリゴコロ』』
原作:「ユリゴコロ」沼田まほかる/双葉社
脚本・監督:熊沢尚人
出演:吉高由里子 松坂桃李 松山ケンイチ 佐津川愛美 清野菜名
配給:東映 日活
©沼田まほかる/講談社 ©2017「ユリゴコロ」製作委員会
2017年9月23日(土)ロードショー
公式サイト:http://yurigokoro-movie.jp/
「ユリゴコロ」沼田まほかる/双葉社
ある一家で見つかった「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。そこに記されていたのは殺人に取り憑かれた女による創作か、事実かも定かではない告白文だった。この一家の過去にいったい何があったのか。ラストまでページをめくる手が止まらない衝撃の恋愛ミステリー。本屋大賞にもノミネートされ、第14回大藪春彦賞を受賞した超話題作。著作『彼女がその名を知らない鳥たち』も映画化(10月28日公開)されるなど、“イヤミス”の旗手として注目を集めている。
『東京タラレバ娘。』全9巻 東村アキコ/講談社
脚本家の鎌田倫子(33・独身)は、恋も仕事も上手くいかず、高校時代からの親友である香、小雪と「女子会」を繰り返す日々を送っていた。あの時彼がもう少しセンスが良かったらプロポーズを受けていたのに、バンドマンの彼がもう少し芽が出る可能性があったら…。「こうしていたら」「ああすれば」と過去の“タラレバ”話ばかりしていると、偶然居合わせた金髪のイケメン・KEYに「このタラレバ女!」と言い放たれてしまう。もがき苦しみながらも幸せに向かって突き進むタラレバ娘たち。彼女たちの進む先にあるものは? リアルなアラサー女子の本音を描き共感する女性続出の人気コミック。2017年に吉高由里子主演で連続ドラマ化された。