八木莉可子インタビュー 原作が好きだからこそ伝えたい実写化の息遣い 『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』

若い世代を中心に大きな反響を集め、わずか4年で世界累計発行部数1000万部を突破した大人気マンガ「WIND BREAKER」。2024年にTVアニメ化を果たすと、各配信サービスで視聴ランキング上位を席巻した。そんな人気マンガを原作にした実写映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』が12月5日(金)公開となる。

ケンカだけが取り柄の高校生・桜遥 (水上恒司) は、不良の巣窟で、てっぺんをとるため風鈴高校にやってきた。そこで桜は、風鈴高校の生徒たちが「防風鈴=ウィンドブレイカー」と呼ばれ、街を守る存在へと変貌を遂げていたことを知る。そこに最凶集団「獅子頭連」が、防風鈴を標的として動き出していた‥‥。

今回、風鈴高校がある東風商店街に店を構える「喫茶ポトス」で働き、桜たちを日々見守る喫茶店員・橘ことは役の八木莉可子さんにインタビュー。主要キャストの紅一点であり、原作の大ファンである彼女に、新しい不良映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』の魅力をうかがった。



実写版ならではのリアルさ

——本作『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』は、マンガを原作とした映画ですが、原作は読まれましたか?

原作とアニメをクランクインする前に拝見しましたが、すっかりファンになって、秋葉原にグッズを買いに行きました (笑) 。キーホルダーを買ったり、ガチャガチャを回したり色々買いましたね。すごくハマりました。

——普段、マンガをご覧になりますか?

もともと小説を読む方が多かったんですけど、大人になってからマンガを読むようになりました。「うるわしの宵の月」などの少女マンガも読みますし、「呪術廻戦」も読みます。男性向け女性向けに限らず読んでいますね。

——俳優として、原作がある作品のオファーを受けたときの気持ちをお伺いしたいです。

率直に、ドキドキします。”自分が演じられるだろうか”という面で、すごくドキドキするところはありますね。

——完成された本編をご覧になった感想を教えてください。

風鈴高校のシーンやケンカのシーンなど、撮影現場で見ていない場面もたくさんあって、すごくかっこよかったです。それと実写版ならではの良さが出ているなと思いました。原作もアニメもそれぞれの良さがありますが、実写版では、実際に人が動いているから出る迫力や息遣い、人が演じるからこそのリアルさが感じられました。実写だからこそ、原作やアニメとは異なる「WIND BREAKER」の素敵な部分を引き出せたんじゃないかと思っています。

人が演じることのバランス

——八木さんは「映画だからこその表現を探りながら撮影に臨んだ」とコメントされています。どのように、“橘ことは”というキャラクターの役作りをされましたか?

撮影に入る前に、監督に「アニメの話し方に似せた方がいいのか?」と相談させていただきました。この実写版では、原作やアニメと若干違う要素もあるので「話し方を似せなくてもいい」とのことでした。もちろん同じセリフもあります。音を聞いてアニメと同じようなイントネーション、その音程でコピーするというより、”実写版のことは”を作り上げて、”原作・アニメのことは”と半分半分にするようなイメージで役作りをしました。

——ファンになるくらい好きな作品ですから、原作やアニメの印象に引っ張られすぎないように、役作りをするのは苦労されたかと思います。

原作やアニメにどのレベルまで寄せて、どのレベルまで実写のリアルさを出すかが、本当に難しかったです。「原作ではこういう風に描かれていたんですけど、どうお芝居したらいいですかね?」とか、疑問に思ったらその度に監督に相談させてもらいました。アニメには少しコメディーっぽいところもあって、映画ではその要素は少し抑えられています。一般的に原作がある作品は、原作のファンの方の中に「全然違うものじゃないか」とか「作品を違うものに作り変えないで!」という思いになる方もいらっしゃるのも勿論わかります。素晴らしい原作の良さと、人が演じるからこその良さの、どちらも観て楽しんでいただけたらという気持ちでお芝居に臨ませていただきました。

キャラクターと共演者の温かさ

——共演者の方々とは、現場でどう過ごされていたんですか?

今回、初めてお会いする方が多くて、現場に入る前はドキドキしていました。でも楡井秋彦役の木戸大聖くんは、Netflixの「First Love 初恋」で、共演していたので心強かったです。あのドラマ以来の共演で、その後どうしてる?じゃないですけど、近況とか話していました (笑) 。

その他の演者の皆さんも本当に優しかったです。梅宮一役の上杉柊平さんは、少し年上でスタイリッシュな印象があって緊張していたんですけれど、現場を盛り上げてくださったり、私が1人でいたら話しかけてくださったりとか、とても優しく接してくれました。皆さん本当に温かかったですね。

——演じられた橘ことはと八木さんの共通点はありますか?

さっぱりとした性格は似ているんじゃないかなと思っています。そこが演じやすくもありましたね。ことはって、力が抜けた存在じゃないですか。私も割と自然体でいる方が楽なので、お芝居しやすかったです。

同年代の防風鈴のみんなが戸惑っているときも、彼女はふっと鼻で笑っていて、どこか達観して見えるんです。そんな彼女が、桜に対して感情的に訴えかけるシーンがあるので、そこは注目してもらえたら嬉しいです。

——反対に自分とは違う部分はありますか?

自分との違いというか、見習うところがたくさんありました。彼女って、とても大きな愛の持ち主だと思うんです。梅(ことはによる梅宮の呼称)と同じ児童養護施設で育っているので、ことは自身も色々な経験をしてきたからこそ、桜の孤独もわかる。

上から物を言ったりしますけど、それも本当に桜のことを考えて、”どうか独りで閉じこもらずに、こっちを向いて”という想いがある。「色々な背景を抱えたやつらが集まっているから」みたいなセリフもあって、防風鈴のみんなのことも、すごく理解しているんですね。お芝居をしていて、”私、ここまで懐深くいられるかなぁ”って考えちゃいました。”自分はまだまだだな、その愛の大きさは見習わなきゃいけないな”と思いましたね (笑) 。

作り込まれた大事なメニュー

——撮影は今年2月から4月までの全編沖縄ロケだったそうですね。実在する商店街に、ことはの働く喫茶ポトスがある東風商店街をつくられたとお聞きしました。

お店の内装だけじゃなく、店舗看板、外装、街並みも装飾部さんが映画用に作ってくださって、びっくりしました。CGで処理するのではなく、施工されていたので感動しました。あと裏設定というわけじゃないんですけど、風鈴高校の屋上には大きな木があって、それに関連して喫茶ポトスにもたくさんの緑があります。またポトスの壁には、獅子頭連メンバーの兎耳山丁子の兎、十亀条の亀といったように、登場人物の名前にちなんだ動物が描かれていて、実はすごく練られた装飾をしてくださっています。

防風鈴メンバーの苗字には植物が、対立する獅子頭連メンバーの苗字には動物が入っていて、喫茶ポトスには植物も動物もみんなが一緒にいるんです。細かい部分も楽しんでもらえると思うので、そこにも注目していただきたいです。

——喫茶ポトスといえば、ことはの作るオムライスは、単なる人気メニューというより登場人物にとって特別な食べ物ですね。

実は今までオムライスを作ったことがなくて、今回の映画撮影に入るにあたって作ってみました。半熟だったり、いろんな種類のオムライスがあるんですけど、ことはの場合、オーソドックスな薄い卵の皮で包むオムライス。”卵がキレイに巻けるかな?”ってドキドキしながらお家で作りました (笑) 。

ことはって、オムライス作りが慣れているっていう設定なので、卵を片手で割るシーンがあると言われていたんです。私、いつも両手で割っていたんですけど、片手で割ってみると、ちょっと殻が入ったりするんですよね。すごく練習して、片手で綺麗に割れるようになったんですが、本編では映っていませんでした (笑) 。

——八木さんにとって個人的に大事な食事メニューはありますか?

切り干し大根です。母がよく作ってくれて、それがすごく美味しくて大好きで、自分でもよく作ります。東京に来てから撮影現場でご飯を食べることが多くて、メインの料理をいっぱい作っても、次の日は自宅で食べないこともあるので、常備食を作ることが多いです。夜な夜な切り干し大根をお水で戻して、グツグツ煮て人参切って油あげを切って‥‥ってしています。切り干し大根は思い入れのあるメニューです。



人は温かい対話で成長する

——主人公の桜遥は、人との距離感をうまく取れず他人に頼ることが苦手です。八木さんにはそういう時期ありましたか?

原作を読んでいるときは、桜にすごく感情移入していました。似ているわけじゃないですけど”理解できるな”と思って。頼るのって、なかなか難しいですよね。桜は、何でも自分でやろうとして”助けなんているか!”みたいな感じで、どことなく完璧主義の匂いがする。そういったところに共感したのもあって、「WIND BREAKER」にハマりました。

周りのみんながすごく優しいじゃないですか。防風鈴の仲間も「頼って」「人のことを信じてもいいんだよ」と言ってくれるし、商店街の皆さんにも愛がある。そういうとても温かいものが根底にある作品だと思っています。アクションシーンも、もちろんかっこよかったんですけど、そこでも「ケンカは対話だ」というセリフがあって、道徳的なメッセージを秘めています。みんながどんどん1つになっていき、桜も、みんなも成長していくんですよね。

——この作品では、拳で闘うのもご飯を食べるのもコミュニケーションですからね。

そうなんです。この作品は、ずっと人の成長も描いています。だから”ヤンキーもの”って捉えられるよりは”ヒーローもの”であって、観終わったら、とても温かい気持ちになって帰ってもらえると思います。

観客の皆さんもきっと感情移入できる人物がいて、”人をもっと信じたり、頼ったりしていいんだ”とか、”人の心ってこんなにも温かいものなんだ”ということを、この映画を通して再度、実感してもらえたら嬉しいなと思います。



取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』

ケンカだけが取り柄の孤独な高校生・桜遥。不良の巣窟と恐れられる風鈴高校のてっぺんをとるため街にやってくるも、生徒たちは<防風鈴=ウィンドブレイカー>と呼ばれ、街を守る存在へと変貌を遂げていた―桜は戸惑いながらも防風鈴のメンバーとして、仲間と共に街を守るための戦いに身を投じていく!そんな中、街を脅かすある存在が、防風鈴を新たな標的として動き出していた‥‥。

監督:萩原健太郎

出演:水上恒司、木戸大聖、八木莉可子、綱啓永、JUNON(BE:FIRST)、中沢元紀、曽田陵介、萩原護、髙橋里恩、山下幸輝、濱尾ノリタカ、上杉柊平

配給:ワーナー・ブラザース映画

©にいさとる/講談社 ©2025「WIND BREAKER」製作委員会

2025年12月5日(金) 公開

公式サイト wb-movie