――本作を通じて塚地さんが感じたことや、忠男という人物を生きてみて考えたことなどを教えてください。
この作品に携わる前までは、例えばバスに自閉症の子が乗って来て「ワーッ」と騒いでいたら、どこが怖い気持ちがあったんです。だけど、それは本人の中でフラストレーションが溜まって暴れているのであって、やみくもに誰かに怒りをぶつけたりしているわけじゃないんだということをこの作品を通して知れたので、見方や考え方が変わりました。それまで知らなかったことを知れたということが、今作に携わって一番大きいことですね。
――相手のことをよく知らないから、不必要に怖がってしまうんですよね。
そうなんです。知らなくて怖がっているのと、「そういう症状がある人なんだ」って知っているのとでは違いますから。もちろんこの作品に描かれていることが答えのすべてではないでしょうけど、この映画を通して少しでも他人への理解を持つきっかけになれたらいいなと思います。
それに、この映画では大きく“親子の絆”も描かれているので、親に対して、子に対してみたいなものを、少しでも何か感じてもらえたらうれしいですね。
――ところで、塚地さんは忠さんと同い歳。今年、節目となる50歳を迎えられますが、今どんな心境ですか?
僕も忠さんと同じく独身なので、家庭を持っていないことを「どこか正しくないな」と思う気持ちと「自分の人生の最期はどうなるんだろうか」ということを考えていたんです。そしたら先日、『緊急取調室』というドラマのメイク室で、僕が「今年50歳ですよ~、おっさんですよ」みたいな会話をメイクさんとしていたら、隣に小日向文世さんが座っていらして、「いいなぁ!若いな!」とおっしゃったんです。
僕が平成生まれの人にするようなリアクションを小日向さんは50歳になる僕にしてくるから「50歳からが面白いんだよ」と言っている姿を見て、悲観的にならなくても良いし、「先輩方にしてみれば、50歳なんてまだまだなんだ。これから楽しいことがいっぱいあるんだ!」ということを教えられたので、年齢のことはあまり深く考えずに、気持ちは24歳くらいのつもりでこれからもやっていけたらなと思っています。
――忠さんは「お嫁さんが欲しい」と言っていますが、その辺はいかがですか。
その気持ちはよく分かります。忠さんが「お嫁さん欲しい」って言っているときは、素の僕が出てきているかもしれない。もしかしたら、僕自身の言葉かもしれないです(笑)。
取材・文 / 根津香菜子
撮影 / 岡本英理
父親代わりの梅の木が運んでくれた“小さな奇跡”とは?
山田珠子は、息子・忠男と二人暮らし。毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が届いていた。ある日、グループホームの入居案内を受けた珠子は、悩んだ末に忠男の入居を決める。初めて離れて暮らすことになった忠男は環境の変化に戸惑い、ある晩ホームを抜け出してしまう。そして、珠子は邪魔になる梅の木を切ることを決意するが・・・。
監督・脚本:和島香太郎
出演:加賀まりこ、塚地武雅、渡辺いっけい、森口瑤子、斎藤汰鷹/林家正蔵、高島礼子
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
2021年11月12日(金) シネスイッチ銀座ほか全国公開