Nov 12, 2021 interview

塚地武雅ロングインタビュー 『梅切らぬバカ』は親子のリアルな日常をしっかりと描いているのが大事な部分

A A
SHARE

――忠さんがぎっくり腰になって、介抱する珠子さんと二人で倒れた後のやり取りがユーモラスでとても好きなのですが、塚地さんは珠子さんとのお好きなシーンはありますか。

毎朝、二人でご飯を食べるっていうシーンが僕の中ではすごく重要でした。これがこの親子にとっての日常なんだなって思えるところがこの物語の肝になっていると思うし、好きなシーンでもありますね。

グループホームで他の入居者の人たちとご飯を食べているときや、お隣の里村一家が家に来て食べるときなど、「食べる」というシーンにおいて、忠さんは変わらず淡々と食べているだけなんですが、周りの人たちの環境が違うだけで、どこか寂しそうに見えたり、うれしそうに見えたりすると思うんです。僕の中では、この映画を見ている人に、「あ、今忠さん喜んでいるな」とか「悲しんでいるな」と、どっちにも取られるように見えなければいけないなということは、全体を通してとても重要なことだったので、常にその意識はしていました。

――「このままではお互い共倒れになる」と、忠さんがグループホームに入居することを決めた珠子さんの決断を、息子の立場としてはどう受け止められましたか?

多分忠さんとしては、その現実を受け止めていないというか、分からないことだったと思います。忠さん自身はお母さんに「グループホームで暮らしてみる?」と言われたから「そこに暮らします」というだけで、うれしいとか寂しいという感情は、本人がどこまでそう思っているのか、我々じゃ分からない感覚だったりもするので。なので、僕は忠さんがうれしいのか寂しいのか、どっちにも見えるように演じることが重要でした。

もしかしたら間違っている解釈かもしれないけれど、僕の感覚では、忠さんは「喜怒哀楽」が直結していて、「知らない所にいる」=「寂しくなってワーッとなる」んじゃないかなと思いながら演じた感じですね。

――忠さんを演じていて、大変だったシーンはありますか?

映画の後半で、珠子さんに抱きしめられながら「ありがとう」って言われたときも、僕自身の耳で聞いたらグッときちゃうので、「僕の気持ちで聞いちゃいけない」というのが難しかったです。

――塚地さんとしてあの言葉を聞いてしまうと、涙が出てしまうようなシーンだったのですね。

本来のお芝居ならそれが一番いいんでしょうけど、そこは忠さんですから。お母さんからああいう風に言われて「ありがとう」って返せば劇的でドラマチックだし、涙して拍手する観客の人もいるだろうけど、この映画は親子のリアルな日常をしっかりと描いているので、自閉症の子供を抱える親御さんが見ても「そんなことは起こらないよ」っていう嘘をついていないという点も、この作品の大事な部分でもありますから。なので、自分の感情は出さないようにすることも心がけていました。