復讐は正義か 大義か
チャーリーの動機は、復讐である。殺しのライセンスを持たない男が、個人的な理由で犯人を手にかける。スパイの多くの仕事は、政治的な意図があるものだが、彼にはない。
チャーリーの行為は許されるのか?という疑問とともに、スパイが国家の安全のため、世界の危機を食い止めるために行う業務は、おとがめなしなのか? 大義のため、個人の正義ため、この違いに観客は苛まれることだろう。

レイチェル・ブロズナハン
「この映画は正義と復讐、この二つの間にある曖昧な部分について問いを投げかけています。必ずしも、私はこういうスパイ映画のターゲット層ではないけれど、この映画とチャーリーの旅がすごくいいと思っている。
私はチャーリーというキャラクターに自分自身を重ねることができました。恐らく多くの観客も同じだと思います。彼は愛する誰かのため、あるいは自分が信じている何かのために、地の果てまで行くことをいとわない。
最初はみんなが想像するようなアクションに満ちた旅に出るような人ではないけれど、彼は、他の誰かになろうとはせず、自分のスキルを使って、自分のやり方で目標を達成していく。私はそんなチャーリーが大好きです」

だが、チャーリーが復讐を遂げようとすることを、不都合にとらえる人間がいる。それはもちろんテロリストであり、勤務先のCIAですらそうである。いわば強大な組織に抗い、たった独り、犯罪世界へ立ち向かう。ついこの間まで、モニターとにらめっこして暗号を解いていたデスクワークのCIA局員が、である。
妻のサラは非常にチャーミングだ。復讐のさなか、チャーリーが思い出す一抹のサラの記憶は、とても麗しい。それが泡のように消える瞬間の切なさはチャーリーの孤独を際立たせる。
しかし、愛する人を亡くした喪失感が、男をここまで奮い立たせるものなのか、自分に置き換えたときに、怒りは湧き起こるが、無力感に苛まれるだけで、彼のような行動ができるか自信がない。

ラミ・マレック
「もし僕がチャーリーと同じような状況に置かれたら、恐らく視野が狭くなって、周りが見えなくなると思います。
チャーリーの素晴らしいところは、愛のためにあらゆる物事を敵に回す。だから世界が彼に共感する。他の見方は僕はちょっとできない。
この映画を気に入っているのは、愛する人を失った悲しみに対処し、その感情の変化を見ることができるところ。愛する人の死の否定がどの段階で止まり、それが怒りに変わり、その先をどう進むのか。監督のジェームズと僕は、感情の描き方について細心の注意を払いました。
自分の生活はあるし、世界は変わらず回っている。そんな中、どうすれば喪失感を受け入れることができるのか。すべての人間がそうであるように、チャーリーもそれを切り抜けなければならない。
彼の場合、周りにどう見られるかなんて、全然気にしていない。ごくごく自然に、ただ自分が生き延びること。そして愛する人の記憶を残すことだけを考えているんだ」

映画『アマチュア』は、愛の復讐劇であると同時に、覚悟を決めたデスクワーカーが、世の中の理不尽に戦いを挑む話でもある。スパイ映画であり、スパイでないプロフェッショナルな貴方たちの物語でもあると思う。
果たしてチャーリーは想いを遂げることができるのか、そしてその先に何があるのか、スクリーンで確認していただきたい。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理

スパイ映画史上最も地味な主人公、CIA分析官のチャーリーが、最愛の妻の命を奪った国際テロ組織に挑む、予測不能な復讐劇の幕が上がる。
監督:ジェームズ・ホーズ
出演:ラミ・マレック、ローレンス・フィッシュバーン 他
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公開中
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