Sep 30, 2021 interview

主人公の無音の世界に引き込まれる 映画『サウンド・オブ・メタル』映画館で体感できる“特別な聴覚体験”

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映画を観るときに、音に対して意識することはあるだろうか。もちろん、壮大なミュージカルや、派手なアクション・シーンは迫力の音響によって興奮や高揚感を呼び起こすかもしれない。何気なく聞こえる日常音に耳をそばだてたり、もしくは無音の状態を感じながら映画を観るという体験はそれほど多くはないだろう。そういった意味において『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』は、他では得られない特別な聴覚体験を味わえる作品である。

ストーリーは非常にシンプルだ。ハードコア・バンドのドラマーであるルーベンは、ある日突然耳が聞こえなくなってしまう。そのため、恋人でありバンドメンバーのルーが探してきた難聴者が集まるコミュニティで生活するようになる。外界と遮断されたコミュニティの人々と交流を深めつつも、ルーベンは前に進む決心をする。難病やハンディキャップを扱った物語というと、どこかお涙頂戴に陥りがちだが、本作はそういった要素は一切ない。主人公は難聴による孤独や挫折を受け入れながら、淡々と自分の人生と向き合っていくのだ。

ここでの特別な聴覚体験というのは、実際にルーベンが聞いている音、もしくは聞こえていない状況を、映像を通じて体感できるということ。ルーベンにとってはまったく無音だとしても、実際には様々な音が鳴っていたりする。それが細やかに切り替わることで、映像に独特の抑揚やリズムを生み出しているのだ。視覚的にも映像は非常に美しいが、そこに伴う繊細な音を感じられることが本作の醍醐味でもある。なお、本年度のアカデミー賞では主要6部門にノミネートされたが、音響賞と編集賞を受賞しているのも納得できるのではないだろうか。

監督と脚本は新進のダリウス・マーダー、主演は『ヴェノム』のリズ・アーメッドと、『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クックが努めている。また、驚異的な音響は『ゼロ・グラビティ』にも参加したというニコラス・ベッカーによるもの。水中にいるような音の聞こえ方や、低振動と低周波を駆使した“聞こえない音”を効果的に配したサウンドデザインは、決して派手ではないが観ているうちにじわじわと音の大切さを実感させてくれるのだ。まさに“特別な聴覚体験”ができる作品なのである。

本作は2019年にトロント国際映画祭でプレミア上映され、翌2020年11月に全米で劇場公開がスタートしている。ただ早々にアマゾン・スタジオズが配給権を獲得していたこともあり、日本でも昨年12月からAmazonプライム・ビデオで視聴が可能だ。実際、すでにご覧になった方も多いことだろう。しかしこの度、日本でも劇場公開が決定した。

すでに配信が始まっている作品を敢えて劇場にかけるのには、それだけの理由があるからだ。ここでは劇場公開を決意した東京テアトル株式会社の西澤彰弘氏、蒲建介氏に話を聞いた。