音楽は最もパワフルな世界共通言語
――個人的に最も好きなのが、空襲を避けるために人々が集まったシェルターで、ドヴィドルがライバル視する年長のユゼフ・ヴェスクラー(シュウォルツ・ゾルタン)と、ヴァイオリン演奏で対決する場面です。
あのシーンは音楽と台詞を交錯させて物語を伝えることが表現できたかなと思っています。『24の奇想曲』を演奏して競い合う姿をモンタージュで見せているわけですが、撮影する前から、こういうふうに見せようというプランは細かく出来ていました。
――台詞がなくても音楽で心を通じ合わせる素晴らしいシーンでした。
音楽がまるで台詞のような役割を果たすことで、音楽で台詞を言っているかのような表現が出来たと思うし、ああいった場面では台詞がない方が自分のテイストには合っているんだと思いました。
――本作はトレブリンカ強制収容所での撮影をはじめ、民族にまつわる重い歴史がつきまとう作品だけに、日本人には理解しづらい部分もあるかと思います。しかし、“音楽”によって、言語を介さなければ理解できなかった部分を感じることが出来たのではないかと思います。
ヴァイオリンに限らず音楽全般に言えることなんですが、音楽が有利なところは、世界中の人たちとコミュニケーションすることができるところだと思います。字幕がなくてもみんなに通じるところが、私はとても気に入っています。テキストと音楽は良い友だちだと思うんです。だから映画のなかの音楽を、脚本をデコレーションするものとして扱うのではなく、ストーリーテリングの一部として使うことができれば、音楽は最もパワフルな言語になるんじゃないかと思います。
取材・文 / 吉田伊知郎
映画監督 / 脚本家
カナダ・ケベック州出身。1984年にゾーン・プロダクションを設立し、数々の短編映画やダンスを主題としたミュージックビデオを手掛ける。『Cargo(90‘)』で長編映画デビュー。98年の『レッド・バイオリン』ではジェニー賞8部門を制し、東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞。2007年には、日本・カナダ・イタリアの合作映画『シルク/SILK』を監督。また、日本では東京ディズニーリゾートに誕生したシルク・ドゥ・ソレイユの常設劇場の演出も担当。作家・井上靖の小説「猟銃」を女優・中谷美紀を迎えて舞台化。その他映画作品では『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』等がある。
第二次世界大戦が勃発したヨーロッパ。ロンドンに住む9歳のマーティンの家にポーランド系ユダヤ人で類まれなヴァイオリンの才能を持つ同い年のドヴィドルが引っ越してきた。宗教の壁を乗り越え、ふたりは兄弟のように仲睦まじく育つ。しかし、21歳を迎えて開催された華々しいデビューコンサートの当日、ドヴィドルは行方不明になった。35年後、ある手掛かりをきっかけに、マーティンはドヴィドルを探す旅に出る。彼はなぜ失踪し、何処に行ったのか? その旅路の先には思いがけない真実が待っていた。
監督:フランソワ・ジラール
出演:ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリー、キャサリン・マコーマック
配給:キノフィルムズ
© 2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft
2021年12月3日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
公式サイト:songofnames.jp